蜀犬 日に吠ゆ

1919-06-21

[][]六月二十一日 あらゆる方面への完き愛こそ はてなブックマーク - 六月二十一日 あらゆる方面への完き愛こそ - 蜀犬 日に吠ゆ

眠られぬ夜のために〈第2部〉 (岩波文庫)

眠られぬ夜のために〈第2部〉 (岩波文庫)

 あらゆる方面への完き愛こそ、この世につづく正しい存在を迎えうるために達しなければならない、この地上生活の最後の目標であり、しかも同時に、それによってのみ世界が救われうる「魔法の杖」であること――のことをわれわれは、人生のある段階に到れば、十分に洞察することができる。これに反して、一方で、この立派な目標に完全に到達しようという希望を抱きながら、他方で、このような愛の目標がわれわれの正常な判断をいくらか妨げるかもしれないと懸念しないことの方は、もっとむずかしい事柄である。だが、これは両方ともにまちがっている。このすべての方面への愛が、もしわれわれ自身から、またわれわれの力でもって、実現されねばならないのなら、それはたしかに到達できないであろう。だがこの愛は、神の真理からひとりでにわれわれの心に流れ込むものであって、われわれはただその流れ入るのを防げず、心にきざすさまざまな異論に耳をかさなければよいのである。それらの異論のうちで最も悪いのは、愛は真理に対して盲目にする! という、まさにあの異論である。だが、これは真実ではない。かえって憎しみや、いや、単なる冷淡さえもが、ひとをもっと近視にするものだ。ところが、愛は人の心ばかりでなく、精神をも広く、明るくし、またすべての人間的な生活の知恵よりも、はるかに賢明にすることができる。「やってみなさい」と、この場合も言わねばならない。まあしばらくの間は、いろいろと疑わしいものの中で、最も愛にみちたこと(最も感謝されそうなことではなく)を実行しなさい。そしてどんな結果が生じるかを見るがよい。おそらくあなたの周囲の身近な人や遠い人が、まもなくそれを認めてくれるにちがいない。

ヒルティ著 草間平作・大和邦太郎訳『眠られぬ夜のために』第二部 岩波文庫