蜀犬 日に吠ゆ

1919-07-07

[][]七月七日 すべての峯にやすらぎがある はてなブックマーク - 七月七日 すべての峯にやすらぎがある - 蜀犬 日に吠ゆ

眠られぬ夜のために〈第2部〉 (岩波文庫)

眠られぬ夜のために〈第2部〉 (岩波文庫)

 「すべての峯に、やすらぎがある*1」というゲーテのすばらしい歌曲(リート)は、ただある瞬間の情趣をあらわした極めて的な描写であるばかりでなく、彼の時代や現代の教養ある人びとが、さけがたい老年の近づくときつねに抱きがちの考え方に合致するものでもある。しかしこの詩は必ずしも完全に真実だとはいえない。終りの句はむしろ次のようになるのが本当だったろう、「待て、まもなく新しい朝がきて、いまはるかに望み見るよりも、さらに輝かしい新春の日が来るだろう」と。そうでなければ、われわれとしては、いっそ生まれなかった方がよかったと思うだろうし、より善き生命への再生の希望のない「やすらぎ」は、ただはかない慰めにすぎない。というのは、そのやすらぎは、迷いみだれる思いにみちた束の間の一生ののちにくる、永遠の滅びを意味するからだ。しかも、大多数の人にとっては、迷いみだれる思いの苦悩があまりにもつらいので、ついには実際、死の代価を払っても、ひたすら安息を求め、苦悩からの救済をあこがれてやまないのである。これこそ、この詩のかなしい背景なのである。――あわれな人類よ、かくも多く学び、苦労を重ねた末に達しうる最高のものが、死以上のものでないとすれば!

ヒルティ著 草間平作・大和邦太郎訳『眠られぬ夜のために』第二部 岩波文庫

*1:「旅人の夜の歌」一七八〇年作/すべての峯に/やすらぎがある、/すべての梢は/そよ風に/揺れもしない、/小鳥らも森に静まった。/待て、まもなく/おまえもやすらぐだろう。