蜀犬 日に吠ゆ

1919-07-08

[][]七月八日 人生の幸福というものを はてなブックマーク - 七月八日 人生の幸福というものを - 蜀犬 日に吠ゆ

眠られぬ夜のために〈第2部〉 (岩波文庫)

眠られぬ夜のために〈第2部〉 (岩波文庫)

 人生の幸福というものを、もっぱら喜びや苦しみがのこす単なる感情によって判断するならば、結局は、ショーペンハウアや彼と同じ傾向の哲学者たちのペシミズムが正しいということになるだろう。なぜなら、苦しみはどんな喜びよりも、ずっと強い消えがたい跡を記憶のうちに残すからだ。

 しかし、それとは別の、はるかにまさった考え方は、人間をその最高の進歩に近づかせるものを幸福と呼ぶ見方である。この考え方によれば、同じ理由からして、苦難の時期こそが人を内的に進歩させる最大のはたらきをするので、それが幸福なのだという結論に達する。使徒パウロの晩年の数通の手紙は(あのとりわけ美しいヘブル人への手紙はしばらくこれに数えなくても*1)、このような意味でついには幸・不幸を完全にのり越えたひとりの人間の姿を示しており、また「神を愛する者たちには、万事が益となるに違いない」(ローマ人への手紙八の二八)という彼の実に有名な言葉が、彼自身において完き真理となっている。われわれもまた、そのようになることができるのである。

ヒルティ著 草間平作・大和邦太郎訳『眠られぬ夜のために』第二部 岩波文庫

*1:この手紙はパウロの筆になるものでないという説が一般的であるためだろうか。(訳者注)