蜀犬 日に吠ゆ

1919-07-10

[][]七月十日 いちばん厄介なのは傲然とやって来て はてなブックマーク - 七月十日 いちばん厄介なのは傲然とやって来て - 蜀犬 日に吠ゆ

眠られぬ夜のために〈第2部〉 (岩波文庫)

眠られぬ夜のために〈第2部〉 (岩波文庫)

 弱くて、内面的に不幸な人のいろいろな変り種には、まだしも我慢できるし、またしてやらねばならない。いちばん厄介なのは、傲然とやって来て、神の存在の明らかな証拠を見せてくれ、自分もかつて神に呼びかけたが、すこしも助けてもらえなかった、などと言う連中だ。彼らは、よしんば神が助けたとしても、それをあとからほかの原因のせいにするだろう。――このような、たいてい若い人たちは、全く手のつけようがない。というのは、「神はへりくだる者にのみ恵みを賜うから」である(ペテロ第一の手紙五の五)。それに、神は挑まれてもこころみには応じられぬからである。こういう事柄について彼らと議論を重ねてみても、全く無益なのだ。たいていの人は、浅薄な教養を多少身につけると、必ず最後には、ヘッケルかニーチェの信奉者になってしまう。ニーチェもおそらく、そのようなこころみを敢えてしたであろうが、そのさい謙遜という大切な資格が欠けていたのである。福音はなに人に対しても強制できないし、また口先だけで説きすすめるわけにもいかない。しかし喜んでそれを受けいれる者を、福音は決して見捨てないであろう。これは、数千年後の今でもなお証明されうることであろう。神がわれわれを捨て給うのでなくて、われわれがいつもまず神を捨てるのである。

ヒルティ著 草間平作・大和邦太郎訳『眠られぬ夜のために』第二部 岩波文庫