蜀犬 日に吠ゆ

1919-07-31

[][]七月三十一日 体の力をもいたわり はてなブックマーク - 七月三十一日 体の力をもいたわり - 蜀犬 日に吠ゆ

眠られぬ夜のために〈第2部〉 (岩波文庫)

眠られぬ夜のために〈第2部〉 (岩波文庫)

七月三十一日

 あなたが体の力をいたわり、できるだけそれを維持しようとつとめ、そのために医師のよき助言を用うるのは、たしかに、全く当然のことである。というのは、この生命を投げすててよいわけがないからだ。しかし、老年期における主要事は、おそらく肉体の生命の維持ではなくて、別の力をできるだけ強めることであろう。それは死にもうち勝ちうる力、つまり、精神力を十分に保ちながら元気よく人間を死につかしめる力である、ちょうどキリスト教について確かな根拠をもって語られているように*1。これについては、通常、医師はあまり知ろうとしない。なぜなら、今のところまだ、それは彼らの講義ノートに記されていないからだ。しかし、そのようなことは、確かにありうる事だが、ただ残念ながら、それはあまりにも稀れにしか見られない事実である。かようなより高い生命と、来世の力とを、すこしも自分のうちに持たない高齢者というのは、自分にとっても、他人にとっても、よろこばしい姿ではない。結局、自他いずれにとっても重荷にすぎないことがよくある。

 あなたはそのような羽目におちいってはならない。

ヒルティ著 草間平作・大和邦太郎訳『眠られぬ夜のために』第二部 岩波文庫

*1マルコによる福音書一五の三九、「イエスにむかって立っていた百卒長は、このようにして息をひきとられたのを見て言った、『まことに、この人は神の子であった』。」