蜀犬 日に吠ゆ

1919-09-01

[][]九月一日 天才が大事業を始め はてなブックマーク - 九月一日 天才が大事業を始め - 蜀犬 日に吠ゆ

眠られぬ夜のために〈第2部〉 (岩波文庫)

眠られぬ夜のために〈第2部〉 (岩波文庫)

  「天才が大事業を始め、

  勤労のみがそれを仕上げる。」


 この言葉は残念ながら、必ずしも文字どおりに正しいとはいえない。天才的な人びとは彼らの最初の考えを、それを仕上げていく全段階を通して、そのまま持ちつづけることをしない。そういうことは彼らを退屈させ、そのためしばしば、もとの考えにまで影響して、ほかの方にそれたりする。そこで、彼はむしろそれを断片のままに残してしまう。これに反して、偉大な「勤労者」たちには、天才が欠けていることが多い。彼らはただ手本に従って仕事をするにすぎないのだ。だから、すでにドイツかフランスか、それともイギリスかアメリカにあって評判のよかった物を、まねすることができない場合は、彼らはすっかり途方に暮れてしまう。

 この両者のある意味での中間の道は、仕事の仕上げとくり返しをするやり方である。いつまでも資料集めに日を過ごすことなく、まず、最初の腹案のまま急いで大ざっぱにやっておいて、それからふたたびそれに掛かり、だんだんによくして行くこと、このやり方はしばしば性急な人びとにも、大変うまく成功するものである。印刷される仕事の場合には、いくどもそれに修正を加えることによって、極めてたやすくやりとげることができる。ひとはだれでも、いろいろためしてみて、自分の一番よい仕事のやり方を見つけなくてはならない。

ヒルティ著 草間平作・大和邦太郎訳『眠られぬ夜のために』第二部 岩波文庫