蜀犬 日に吠ゆ

1919-09-04

[][]九月四日 まるで異なった事情のもとで成立した世界観や人生観 はてなブックマーク - 九月四日 まるで異なった事情のもとで成立した世界観や人生観 - 蜀犬 日に吠ゆ

眠られぬ夜のために〈第2部〉 (岩波文庫)

眠られぬ夜のために〈第2部〉 (岩波文庫)

 およそ二千年も前に、われわれとは全く無縁な土地と民族において、現代とまるで異なった事情のもとで成立した世界観や人生観に、われわれは一体、なぜ従わねばならないのか、という問題なり疑念なりに、ともすると陥りやすいものだ。だれでも教養ある人びとは、生涯に一度かあるいはもっとたびたび、こうした疑念が心に湧き起るのを感じたことと思う。それはきわめて自然なことである。

 しかし、一面からいえば、ひっきりなくわれわれの考えに新しい基礎を据え直すよりも、それを歴史的根拠の上に築いていく方が、ずっと容易である。次に――そしてこれが主な点であるが――これまで、どんな哲学的人生観も、また、ほかのどんな宗教も、すべての人のために真の幸福をもたらすだけの力を実際に示したものは一つもないのである。もしある国に真のキリスト者ばかりがいるとしたら、おそらく「社会問題」などまるで起らずにすむであろう。しかもこのようなことは不可能ではあるまい。これとは反対に、哲学者ばかりの国など、決してありえないであろう。また、マホメット教国や仏教国が何をなしうるかは、容易に目で見ることができる、しかも、これらの国の人たちがその宗教に帰依している熱心は、われわれが自分の宗教に対する以上であるにもかかわらず。

 また、社会主義国家体制が大して幸福をもたらすものでないことも、いずれまもなく明らかになるであろう。このことは確実に推測することができる。だから、なんらの「神秘的」添え物なしに、いわば信仰をはなれて考えても、歴史的キリスト教が真にその最初の告知者(キリスト)の意図のままに実現されていたならば、それは万事を正しく導きうる「よろこばしきおとずれ」(福音)となったはずだという考えに、われわれはたえず立ち戻らざるをえない。

ヒルティ著 草間平作・大和邦太郎訳『眠られぬ夜のために』第二部 岩波文庫