蜀犬 日に吠ゆ

1919-09-13

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眠られぬ夜のために〈第2部〉 (岩波文庫)

眠られぬ夜のために〈第2部〉 (岩波文庫)

 エマソンは「魂がよくはたらいているときには、魂の不滅などということには無関心なものだ」と言っている。たしかに、生涯のまださかんな時期においては、つまり現世を越えたあの世の事柄にたえず没頭するのは人間のあり方や考え方の一種の病的傾向を意味するような時期においては、エマソンの言葉が真実であるかもしれないが、もっと老年になると、これは必ずしもあてはまるものではない。年をとれば、むしろその反対の現象が現れてくる。すなわち、この世の事象にはいちじるしく興味がうしなわれ、精神は主として彼岸の生活に関心を抱きはじめるのである。ちょうど、ひとが大がかりな引越しをしようとして、そのまぎわになると、もう古い居住地よりも新しい居住地の事情のことを多く気にかけはじめるのと同じである。だから、トルストイも重病から回復したときに、「死に対する覚悟がやっっとできたのに、それと別れなくてはならないのが、実は残念なのだ」と、言ったのである。

 いまや、わが道は終ろうとする、

 ああ、この世よ、おまえになんの心残りがあろう。

 天国はわがあこがれのところ、

 そこへわたしは入らねばならぬ。

 よけいな重荷をたずさえず、

 旅の支度もできたので、

 神と平和の恵みのなかへ

 さあ、よろこんで進むのだ。

ヒルティ著 草間平作・大和邦太郎訳『眠られぬ夜のために』第二部 岩波文庫