蜀犬 日に吠ゆ

1919-10-10

[][]十月十日 人間の魂というものは はてなブックマーク - 十月十日 人間の魂というものは - 蜀犬 日に吠ゆ

眠られぬ夜のために〈第2部〉 (岩波文庫)

眠られぬ夜のために〈第2部〉 (岩波文庫)

 人間の魂というものは、それが幼児の魂、あるいは犯罪者の魂でさえも、その人と神とだけのものである。われわれは無理矢理に、または、押しつけがましく、人の魂を思いのままに扱ったり、魂のなかに押し入ったりしてはならない。このことは、たとえ法律によって、ある人間の肉体的存在を自由に取扱うことが許されている場合でさえ、そうである。

 ただ愛だけは、「あなたの心をわたしに与えなさい」(箴言二三の二六)と求めることが許される、けれどもそれは、こちらも自分の心を、しかも、こちらからまず最初に与えることによって、である。

 もし神にも何か法則というものがあるとすれば、この自然の法則には、神みずからも従われるであろう。事実、多くの人びとが神を愛しないのは、きまって必ず先に与えられる神の愛が、見えないからである。だから、神がまず人間を愛し給うたことを、たえずくり返してほめそやす説教師は、愚か者である。神にとって、愛することは単に必然的であったのだから。

 どんな人間でもこのような感情を本能的にもっているもので、まことの愛の根底も息吹をも感じさせないすべての「伝道」や教化に対しては、だれでも抵抗を覚える。このような愛は、それをただ装(よそ)うことも、また空虚な言葉をもって代えることもできない。

 たいていの子供たちが、その両親や教師たちを愛しないのも、実にこのためである。

ヒルティ著 草間平作・大和邦太郎訳『眠られぬ夜のために』第二部 岩波文庫