蜀犬 日に吠ゆ

1919-12-19

[][]十二月十九日 人間の性格におよぼす芸術の影響について はてなブックマーク - 十二月十九日 人間の性格におよぼす芸術の影響について - 蜀犬 日に吠ゆ

眠られぬ夜のために〈第2部〉 (岩波文庫)

眠られぬ夜のために〈第2部〉 (岩波文庫)

十二月十九日

 ルカによる福音書二一の五・六*1。イタリアの小専制君主たちは、芸術の最も偉大な奨励者(パトロン)であり、彼らの最も名高い記念物の建立者でありながら、しかも同時に、その宮廷には野蛮と邪悪が満ちていたという、その歴史上の事実を知るとき、われわれは、人間の性格におよぼす芸術の影響について、いくぶん懐疑的にならざるをえないし、また、われらの主が当時の壮大な建造物にほとんど関心をしめさなかった所以も理解できよう。

 わたしには、少なくとも、芸術に対する熱中はまことの宗教への生き生きした関心と必ずしも一致するものではない、と思われる。もちろん美の感覚は、とくに若い人びとには絶対に欠くことのできない、人間の教養要素の一つにちがいないが、いずれにしても、善よりも美を重んじてはならないし、また決して美を善と混同してもならない。それは二つの、まったく違ったものであり、たがいに区別さるべきものである。

ヒルティ著 草間平作・大和邦太郎訳『眠られぬ夜のために』第二部 岩波文庫

*1:「ある人々が見事な石と奉納物とで宮が飾られていることを話したので、イエスは言われた、『あなたがたはこれらのものをながめているが、その石一つでもくずされずに、他の石の上に残ることもなくなる日が、来るであろう』。」