蜀犬 日に吠ゆ

1919-12-26

[][]十二月二十六日 まことの鄭重さは はてなブックマーク - 十二月二十六日 まことの鄭重さは - 蜀犬 日に吠ゆ

眠られぬ夜のために〈第2部〉 (岩波文庫)

眠られぬ夜のために〈第2部〉 (岩波文庫)

 すべての人にたいするまことの鄭重さは、一人の人間に宿ったこの神の慈愛が、人間仲間に対してあらわれたもの以外では決してない。それと性質の違うすべての鄭重さ、たとえば、外交官だの、そのほか上品な世間人が良い教育によってよく身につけている鄭重さなどは、礼儀をわきまえぬ場合と反対に、たしかにこころよいものにはちがいないが、しかし、どうしても常にいくらかわざとらしい印象を与えるし、お愛想だの、偽善だのに類する見せかけだという、なんともいやな感じを残すものだ。このような鄭重さは、よい代用物ではあっても、それ以上のものではない。

 動物でさえ、本当の慈愛には気づくものである。聖者の説教に耳をかたむけた小鳥や魚についての伝説とか、アッシジの聖フランチェスコの生涯における「兄弟狼」のふしぎな物語はみな、このような真実な背景をもっている。

 植物の栽培においても、ある人びとは、特別によく世間でいわれる「幸いの手」を持っている。しかし、これも結局、そのような慈愛以外のものではない。

ヒルティ著 草間平作・大和邦太郎訳『眠られぬ夜のために』第二部 岩波文庫