蜀犬 日に吠ゆ

1919-12-27

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眠られぬ夜のために〈第2部〉 (岩波文庫)

眠られぬ夜のために〈第2部〉 (岩波文庫)

 身体が完全に健康だというすばらしい感じは、老年においては、たいていほんの一時的なものであって、からだがすっかり安らいで、暖かなとき(たとえば朝のベッドの中か、秋にトゥーン湖畔の陽あたりのよい場所にでもくるとき)などに与えられるが、しかし、そんな時には、時おり、来世の予感かと思われるような、美妙な気持を覚える。もしわれわれが老年において、このような感じを持ちつづけることができれば、円熟と静かな晴れやかさのこの時期――フランス語の「セレニテ」(清朗)という言葉の方がこの感じをもっとぴったりいい表わしている――は、実に人生の最上の時であって、いわゆる青春の歓楽も壮年の力も、とうていこれと比べものにならない。したがって、この感情は、決して落日の美ではなくて、むしろよりよき存在への夜明けの光に比すべきものである。だが、やがてすっかり真昼になるころには、われわれはこの地上の生活に耐えられなくなるだろう。

 これが老年の最上の幸福である。老年の幸福というものは、必ずしもただ家庭のよろこびや、さもなければ思い出のなかにのみあるのではなくて、もっとはるかに善いものでありうるのである。

ヒルティ著 草間平作・大和邦太郎訳『眠られぬ夜のために』第二部 岩波文庫