蜀犬 日に吠ゆ

1919-12-29

[][]十二月二十九日 最も美しい死とは はてなブックマーク - 十二月二十九日 最も美しい死とは - 蜀犬 日に吠ゆ

眠られぬ夜のために〈第2部〉 (岩波文庫)

眠られぬ夜のために〈第2部〉 (岩波文庫)

 あなたがこころに追い求めている最も美しい死とは、たしかに老年には往々現われるようなたましいと肉体との安らぎのなかから、肉体的生命だけがおだやかに尽きること、であろう。

 そういうとき、心臓のかすかな鼓動が、ほとんど誰にも気づかれないでとまれば、それでよいのだろう。ただ、この地上の生命を人間の持つ唯一のものだと考える、わからずやの医師が、人為的に刺戟を与えて心臓の鼓動をひきのばそうなとどしてはなるまい。

 これとは別な、やはり同じように美しいが困難な死は、あきらかに、英雄や殉教者の死である。キリストもまた、すこしも弱ることなく、精神力にみちて、そのっような死をとげたのである。

 だが、死については、もうこれ以上考えないがよろしい。考えても、なんら有益な結果は生じない。むしろ、生に執着することなく、しかも、人生の任務のために、神のみこころにかなうかぎり、生きつづけなさい。これこそ、すこしも老人臭さを帯びることもない、最もよい年のとり方である。

 そのあとは、新しい青春をまちのぞむことにしよう。

 ヨハネによる福音書一四の一―六。

ヒルティ著 草間平作・大和邦太郎訳『眠られぬ夜のために』第二部 岩波文庫