2008-06-20
■ [筆記][児童文学][サトクリフ]「友情、努力、そして敗北!!」~~サトクリフ『第九軍団のワシ』岩波少年文庫 
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- 作者: ローズマリサトクリフ,C.ウォルターホッジス,Rosemary Sutcliff,猪熊葉子
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2007/04/17
- メディア: 単行本
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もう、対象年齢中学生とか、そういう本しか楽しめません。難しい本とか勘弁してください。
サトクリフのローマ=ブリトン四部作が岩波少年文庫に入ったということで読む。
パクス=ロマーナ。ハドリアヌス帝の時代(117~138)。
五賢帝第二番目のトラヤヌス帝の時代(98~117)に、ローマ帝国は最大領土を獲得した。というとなにかすごいことのように思えるかもしれませんが、実態はトラヤヌス帝の時代には各前線で敗北を喫し、それ以上の領土を拡大できなかったということ。三番目のハドリアヌス帝は領土の維持や平和的な縮小に力を尽くすことになります。
ブリタニア。ローマ帝国西北の辺境。帝国はブリテン島の南部の支配には成功しましたが、北部スコット族やピクト族を服属させることには失敗し、北の国境にいわゆるハドリアヌスの「長城」を建設してバレンシア・カレドニアの氏族を封じこめることにしました。
予備知識はこれだけ。(皇帝の年代だけは年表を見ました。)
紀元117年ごろ、今日のヨーク、その当時のエブラークムに駐屯していた第九軍団が、カレドニアの諸氏族を平定するために北に進軍し、その後消息をたつという事件が起こりました。
それから約千八百年のち、今日のシルチェスターで、かつてはカレバ・アトレバートゥムの町であり、今は緑の野原である場所が発掘されたとき、翼のないローマ軍団の《ワシ》が発見されました。その《ワシ》は今日レディング博物館でみることができます。なぜ《ワシ》がそんなところに埋(うず)もれていたかについては、これまで色々な人びとが、さまざまな説をたてています。でも、第九軍団が北の霧のなかに消えたのち、何が起こったのかわからないように、本当のところは誰にもわかりません。
これらふたつのふしぎな出来事をひとつにして出来上がったのが、この『第九軍団のワシ』の物語なのです。
ローズマリ・サトクリフ
ローズマリ・サトクリフ作/猪熊葉子訳『第九軍団のワシ』岩波少年文庫
主人公マーカス=フラビウス=アクイラの一得一失。
「起」イスカ・ダムノニオルム篇…マーカスは友情を失い、勝利を得る。
「承」カレバ・アトレバートゥム編…友情を得、戦う機会は失われたまま。
「転」バレンシア・カレドニア探索行…父の恥ずべき過去を曝き、そのしるしを取りもどす。
「結」エピローグ…汚名を雪ぐことはできないが、友情と、富を得る。ハッピーエンド。
この作品の素晴らしいのは、マーカスが第九軍団の復活によって父の汚名を雪ごうとして、失敗するところ。(二回目)
元老院から探索の褒賞として土地を受け取ることになるラストはハッピーエンドなのでしょう。しかし、土地よりも忠実なエスカとの友情を守り通したことの方が、マーカスにとっては大きな意味を持つ。それなくしてはマーカスが奴隷によらない農場経営を始める理由が生まれません。マーカスはエスカとともに農場を経営したかった。そしてそのためには、エスカが過去のことで屈託を持つようなことをしたくなかったのでしょう。
そしてワシは?カレバの地下で時を待つ。