蜀犬 日に吠ゆ

2008-07-23

[][]女神の悲恋~~阿久根治子『つる姫』福音館文庫 16:19 はてなブックマーク - 女神の悲恋~~阿久根治子『つる姫』福音館文庫 - 蜀犬 日に吠ゆ

 大三島は瀬戸内の要衝にして三島水軍の本拠。戦国の動乱の中で城主の娘として育ったつるは、よろいを身にまとい、戦場に立つ。

つる姫 (福音館文庫 物語)

つる姫 (福音館文庫 物語)

 いい話だと思うのですが、物足りないというか、うわーそれでお終いかいっていうところが史実の縛りのもどかしいところであり、また面白いところであると思います。

 戦場に立つ女性の話としては、北欧神話のヴァルキリアやジャンヌ・ダルクが有名ですがいずれも象徴といいますか、その場にいることに意義がある存在として扱われます。つる姫もおそらくそういう扱いだったのではなかろうかと。「無双」シリーズのように敵を薙ぎ払って回る、というのは慥かに荒唐無稽ですし、軍略を縦横に駆使する女性というのも史実で有名な人は知りません。それ以前の「戦略」レベルだとエカテリーナ2世だとかオルブライト国務長官とかいそうですが。

 というわけで、つる姫もそういう感じの人だったのかなあ、と。


[][]常識から外れた「正しさ」の誘い~~ロバート・シェクリィ『人間の手がまだ触れない』ハヤカワ文庫 15:05 はてなブックマーク - 常識から外れた「正しさ」の誘い~~ロバート・シェクリィ『人間の手がまだ触れない』ハヤカワ文庫 - 蜀犬 日に吠ゆ

 今日家に帰ってきたとき門の前で、車を運転しているおじいさんから「この辺にお寺ない?」と聞かれました。これって、『人間の手がまだ触れない』の中の「祭壇 The Altar」だよな、シェクリィ・ワールドに引きずり込まれるのはいやだな、と思いました。で、そのおじいさんは道のど真ん中に車を止める出もなく動く出もなくじわじわさせていて、あとの二輪車や自動車がつかえていたので、ちょっと道のはじへ…と思って「なんていうお寺ですか?」といいつつ車を誘導すべくその前から回り込もうとしたら、おじいさんは走り去ってしまいました。うまく通じなかった。

明日もあのおじいさんに出会ったらSF確定。

 タイトルに惹かれて買った短編集。種明かしになるので内容には触れません。

  • 怪物 The Monsters
    • 常識の顛倒した世界。
  • 幸福の代償 Cost of Living
    • 星新一言うところのパンク世界。初出1952なので、星新一のこういう作風に影響をあたえたかもしれない、と妄想しつつ読む。星新一や諸星大二郎だとこの設定からもう一ひねりあります。そうしないとただのパクリになってしまうのですよね。
  • 祭壇 The Altar
    • こっちはラブクラフト風。ちょっとわざとらしい。
  • 体形 Shape
    • グロム星人の物語。自由の尊さ、って本当かなあ。地球の常識では逆になると思います。
  • 時間に挟まれた男 The Impacted Man
    • タイム・パラドクスもの。涅槃へGoはアメリカ人には理解されないか。
  • 人間の手がまだ触れない Untouched by Human Hands
    • 表題作。緊迫しているのか暢気なのかわからない状況。
  • 王様のご用命 The King's Wishes
    • 魔人との知恵比べ。経営者って大変ですね。
  • あたたかい Warm
    • 罠にかかって。かけたのは誰?
  • 悪魔たち The Demons
    • 悪魔との知恵比べ。保険外交員て大変ですね。
  • 専門家 Specialist
    • 銀河連合。モダンタイムスというか、銀河鉄道999というか、とにかく社会の歯車。
  • 七番目の犠牲 Seventh Victim
    • サイバー・パンク。殺すか殺されるかだけの世界。
  • 儀式 Ritual
    • 言葉が通じないときでも、礼儀作法で伝え合う。
  • 静かなる水のほとり Beside Still Waters
    • ロボット。あたえられた命令の通りに働くもの。よくわからないオチでした。

[][]神々のたそがれ~~P.コラム/尾崎義訳『北欧神話』岩波少年文庫 14:16 はてなブックマーク - 神々のたそがれ~~P.コラム/尾崎義訳『北欧神話』岩波少年文庫 - 蜀犬 日に吠ゆ

 北欧神話はまとめて読んだことがなかったので、例によって子供向けの本を読む。

北欧神話 (岩波少年文庫)

北欧神話 (岩波少年文庫)

 神の都 アースガルド。威厳にみちたオージン、力自慢のトール、いたずら好きのローク、美しい首飾りとひきかえに夫を失った女神フレイヤなど、個性的な神々の活躍を描きます。『エッダ』に基づいて描かれた少年少女のための北欧神話。

●中学以上

P.コラム/尾崎義訳『北欧神話』岩波少年文庫

(たぶんロークはローキの誤植。)

 難しいといやですからね。

神々のたそがれ Ragnarok

 北欧の神々は、巨人族との闘いに敗れてみな殺されていってしまいますが、それは、神々自身の不正な行いによるものだとされています。巨人をだまして城壁を作らせたり、こびと(dwarf)の宝物を力附くで奪いとったりするたびに、神々は力を失い、巨人や魔女の呪いが、神々の土地アースガルドを覆ってゆきます。神々の長老オージンOdinは未来を見通すミーミルの井戸の水を飲み世界の破滅を知りますが、滅びの宿命に打ち克つことはできません。

 この辺りが、「やりたい放題」のギリシア神話とは違いますね。北欧神話は、だいたい神さまが、欲に目がくらんだり、よいことも悪いこともする神さまであるローキにそそのかされたりして神の威厳を傷つけるような振る舞いをすることに終始します。この設定はどこから来たのでしょうか。

 思うに、巨人が表現するのは北の「寒さ」なので、神々と人間の英雄たちであっても自然には勝てないという話なのではないかと思います。それが人格神の限界であり、またその滅びることが、人間世界の再生につながり、私たちの営みも永遠ではないけれど常に新しくなってつづいていくという世界観を生み出したのではないでしょうか。