蜀犬 日に吠ゆ

2008-08-23

mori-tahyoue20080823

[][]愛の記憶~~工藤直子『こころはナニで出来ている?』岩波現代文庫 20:34 はてなブックマーク - 愛の記憶~~工藤直子『こころはナニで出来ている?』岩波現代文庫 - 蜀犬 日に吠ゆ

 工藤直子先生の自伝。可愛いイラストだなあ、と感心していたら、この絵も工藤先生だということでびっくり。ものすごい上手じゃないですか。

こころはナニで出来ている? (岩波現代文庫)

こころはナニで出来ている? (岩波現代文庫)

 あらためて自分こころのなかを覗きこんでみると、さまざまな記憶の切れはしが、無数にしまいこまれており、わたしはまるで「記憶」でできているようなのだ。それらの記憶は、一瞬の情景を写しとった絵はがきのように、わたしの中で順不同に積み重なっている。 

工藤直子『こころはナニで出来ている?』岩波現代文庫

 私のこころのなかを覗きこんでみると、工藤直子というのはちょっと特別な位置に置かれている作家です。たった一冊の本によって。

ともだちは海のにおい (きみとぼくの本)

ともだちは海のにおい (きみとぼくの本)

 とくに散文詩。国語の教科書に出てくるものより、ずっと魅力的でした。さすがに今は忘れてしまったわけですけれども、記憶の中から、

うみとなみ

うみのうえには なみ

なみのしたには うみ

いつも うみとなみ

とか、

さ・ば?

さ・ば?

ぼんじゅーる

うい うい めるしー

うい うい さ・ば? さ・ば? めるしー

なんてものが見つかります。

 そして、愛。『海のにおい』のテーマは友情ですが、それは、あるいは友情こそが愛であるような物語であるわけで、当時は何遍も読み返したものです。

 いるかは、おちゃ。ぼくびーる

 閑話休題。

 本書は工藤先生の半生記。記憶の始まりである「川の中をバスが走る」ところから、会社を辞めて私家版詩集を上梓するところまで。台湾時代、一緒に暮らした父母や姉たちのこと、敗戦の後日本に帰り…

 とにかく、日々の暮らしの中で記憶に残っていることが、イラストと詩とともにつづられているだけなのですが、何となく、昔の知り合いに会ったようでなつかしい本でした。

 工藤さんの文体は温かみがあるようでいて時にクールで、自分のことを観察するように他人の観察にも同情があるようでいて妙に突き放していたりします。人と河原の石にどっちが価値があるのか、実際の町と空想の町のどちらが本当なのか、工藤さんのなかではつねに揺らいでいるようにみえます。それが、あの、みんなで喜びも悲しみも分かち合い、それでいてべたべた依存し合わない工藤さんの独特な世界を作りだしているのでしょう。