蜀犬 日に吠ゆ

2009-01-10

[][]ニヤリ~~グレアム・グリーン 小津次郎訳『第三の男』ハヤカワepi文庫 21:01 はてなブックマーク - ニヤリ~~グレアム・グリーン 小津次郎訳『第三の男』ハヤカワepi文庫 - 蜀犬 日に吠ゆ

 『まんが道』や『トキワ荘実録』でおなじみの『第三の男』、といっても話題になるのは映画版。その原作として構想された小説版を読みました。

第三の男 (ハヤカワepi文庫)

第三の男 (ハヤカワepi文庫)

 もってまわった言い回しになるのは、序文ですでに作者グレアム・グリーン自身がこう言い切っているからです。

『第三の男』は読んでもらうためにではなく、見てもらうために書いたものだ。

グレアム・グリーン 小津次郎訳『第三の男』ハヤカワepi文庫

 

 『第三の男』といえば、なんといっても編集者から逃げる手塚先生。夜の道をダッシュして逃げる神さまと、それを追う各誌の編集。やがて、電柱の後ろにそれらしき人影を見つけるのでありました。

 「先生!」

 「(ニヤリ)」

 この、ニヤリが、原作にはない!ショック!!

目をさまさせられた誰かが、腹立たしげに窓のカーテンを引いたので、灯りが狭い道を横切って、サーッとさした。そうして、ハリー・ライムの顔を照らし出した。

グレアム・グリーン 小津次郎訳『第三の男』ハヤカワepi文庫

 ニヤリとしてくださいよおおお!


 もう一つは、学芸部員となった満賀道雄が仕事で映画を見て、劇評の代わりにイラストを描くシーン。いつもはニヒルな記者も「これはすごーい」とかいって、厳しい虎沢部長もこれはいいと褒めてくれます。そこで印象的だった地下水道のシーンは、ばっちりと出てきました。


 第二次世界大戦直後、四ヵ国占領下のウィーン。旧友ハリー・ライムを訪ねてきたロロ・マーティンスは到着したその日に、ハリーの葬式に立ち会うことになります。しかしその死に方を不審に思ったロロ・マーティンスは彼の死にかくされた真相を探るため、イギリスには帰らずウィーンでの冒険を始め、そして…


 ニヤリ


 ハリーなのか?幽霊なのか?


 ところが、もう一つ、まんが道とちがうのはラストシーン。しかも絶賛された映画のラストとはまったく逆。これも序文で作者は言います。

 キャロル・リードと私との間に生じた、ごく少数の重要な論点の一つは、結末に関するものだったが、結果は彼の見事な勝利であった。私は、この種の娯楽物には不幸な結末は重すぎる、と考えていた。リードとしては、私の結末は――一語も台詞がないから、漠然とはしているが、――ハリーの死を目撃したばかりの観客には、不快を覚えさせるほど皮肉に映るだろう、と感じていた。私は正直に告白するが、彼の説には半信半疑だった。女が墓場から歩いて行く長丁場を、観客はじっと坐ったままで見ているだろうか、映画を見終わってから、これもやっぱり私の結末と同じように紋切り型だという印象を受けるのではないか、と私は思っていた。私はリードの巧妙な演出を十分考慮に入れていなかったし、この段階では、リードがツィター奏者アントン・カラス氏という、みごとな掘出し物をしようとは、二人とも予想すべくもなかった。私がシナリオに書いたのは、ハリー・ライムに結びつくテーマ音楽のようなものを、ということだけだった。

グレアム・グリーン 小津次郎訳『第三の男』ハヤカワepi文庫

 こういうサスペンスものでネタバレバリバリの序文というのが許されるのですから英文学というのは本当に分かりません。というか、ネタバレとかそういうことでかりかりするほうが頭おかしいのでしょうかね。