蜀犬 日に吠ゆ

2009-02-13

[][][]城壁まで撤退せよ~~ローズマリ・サトクリフ『辺境のオオカミ』岩波少年文庫 23:23 はてなブックマーク - 城壁まで撤退せよ~~ローズマリ・サトクリフ『辺境のオオカミ』岩波少年文庫 - 蜀犬 日に吠ゆ

 ローマ・ブリテン三部作の第四部完結編。

辺境のオオカミ (岩波少年文庫)

辺境のオオカミ (岩波少年文庫)

 サトクリフのローマ・ブリテンものは基本的に敗北と流浪の物語ですが、『辺境のオオカミ』は敗北と撤退だけの物語。栄光も、もちろん正義もない物語。

 ヒラリオンの声は、いつもの物憂い茶化すような調子になった。

 「わたしたちはなんてバカだったんでしょうな。給料の遅配をしている帝国のためにうろうろして殺されるのがおちだなんて!」

ローズマリ・サトクリフ『辺境のオオカミ』岩波少年文庫

 「きつい暮らしであります、司令官殿。」くたびれたような男は、にやりと笑い顔を見せた。

 「きつい暮らしだな。」アレクシオスはいった。「正義というものがないんだから。」

ローズマリ・サトクリフ『辺境のオオカミ』岩波少年文庫

 正義とは何か。それは、ローマ・ブリテンもの前編にわたるテーマでもありますが、主人公たちが信じる正義、それは「パクス・ロマーナ」。

 西暦343年。ハドリアヌスの城壁の北。カステッルム(ラテン語で「砦」の意)は、友好的だったはずの氏族に攻撃され、撤退を余儀なくされます。「イルカ」の指輪をはめた二百人隊長アレクシオス・フラビウス・アクイラは、以前アブシーナに駐留するブリテン歩兵隊の百人隊長だったときに砦を放棄したことがあり、査問されてこの北の辺境に転任したのだったが、ふたたび試煉の撤退を率いなければならないのです。


 サトクリフの物語で、もう一つの魅力は友情ですが、『辺境のオオカミ』では、友情はもっともきびしい試煉にさらされるといえるでしょう。アレクシオスの親友こそ、かれの第三部隊を追い立てるヴォダディニ族の族長なのですから。

 撤退戦を生き延びたアレクシオスは、皇帝コンスタンスから昇進を持ちかけられますが、辺境のオオカミとして生きることを選び、あえて守備隊を希望します。

 「一度(ひとたび)辺境のオオカミになったら、いつまでも辺境のオオカミなんだ。」ガブロスはいつかそういった。

 彼は皇帝のところへ行った。

 「いいえ、時間はいりません、陛下。わたくしはアタコッティをいただきます。」

ローズマリ・サトクリフ『辺境のオオカミ』岩波少年文庫

 そうして、あたらしい友情を得るのです。