蜀犬 日に吠ゆ

2009-07-15

鉄騎隊

[][][]ローズマリ・サトクリフ『白馬の騎士』上 原書房 21:57 はてなブックマーク - ローズマリ・サトクリフ『白馬の騎士』上 原書房 - 蜀犬 日に吠ゆ

 サトクリフの歴史小説。

 白馬の騎士が、主にヨークシアで戦う話なのですが、地理がサッパリつかめず読むのに苦労しました。地図をつけてくださいよぉ。

 1642年、ピューリタン革命勃発。

 ナンアップルトンの領主サー・トマス・フェアファックスはヨーク代表の国会議員であるフェアファックス卿とともに議会派として戦争に身を投じることになります。


 こういう、歴史の本筋からちょっと離れた人の話が一番楽しいですよね。トマス・フェアファックスがイギリスでどういう評判なのかは知りませんが、結構な活躍ぶりと家柄を誇るので、有名なのだろう事は予想できます。それを自在に料理してフェアファックス夫妻の愛情物語に仕立て上げる腕前は相変わらずです。

 言ってしまうと悪いのですが、「ドラッケンフェルズ」などにように、あまりにオールスターすぎて、時の皇帝カール・ハインツみずからが劇場に来てしまったら、これはここで全滅はないな、とか邪推してしまう私としては、ちょっとよく知らない人の波瀾万丈が楽しいですし、そこここで有名人がちらちら出てくるのがまた楽しいわけです。

 たとえば、トマス・フェアファックスは「ホワイトサリー」という白馬で戦場を駆けるから「白馬の騎士」であるわけですが、愛馬の名前は

 サー・ヘンリー・スリングズビーは、はばの広い肩を厩のドアの枠に寄りかからせながら言った。

「ホワイトサリーか。その名には何か思い入れがあったのかな」

「爺さんは、生涯、ちょっとばかしリチャード侯贔屓でね。だからホワイトサリーと呼ばれる馬が、いつもかならず一頭いたんだ。」

ローズマリ・サトクリフ 山本史郎『白馬の騎士』上 原書房

 という意味はさっぱりわからないのですが、何かゆかしい名前なんだな、リチャード侯爵への思いが、なにか物語と絡んでくるのかな、と想像するだに愉快であるわけです。


 とりあえず、ピューリタン革命からおさらい。角川世界史事典の「ピューリタン革命」「チャールズ1世」「クロムウェル」より。

ピューリタン革命 Puritan Revolurion[英]

 清教徒革命とも。チャールズ1世を支持した国王派と反国王的な議会派の間で戦われたイギリスの内乱(1640-1660)。1640年スコットランドとの主教戦争の失敗から長期議会が招集され、国王の専制に対して諸改革がうち出されたが、41年の大諫奏をめぐって国王派と議会派に分裂、反国王派議員の逮捕未遂事件を契機に、翌42年に内乱へと発展した。議会軍は当初苦戦したが、マーストンムーアの戦いで活躍したクロムウェルの鉄器隊をモデルに新型軍を組織。45年ネーズビーの戦いで決定的勝利をおさめた。戦勝後、議会派内部で独立派と長老派の対立が深まり、48年プライドによって長老派が議会から排除され、残部議会のもとで49年1月国王を処刑。さらに独立派は平等派の反乱を鎮圧し、5月に共和制を宣言した。53年軍隊と議会の対立からクロムウェルが議会を武力で解散。護国卿に就任し独裁体制を確立したが、58年のクロムウェルの死により求心力を失い、60年5月に王政復古を迎えた。

『角川世界史事典』角川書店 2001年
チャールズ1世 Chales Ⅰ 1600-49

 イギリス王。在位1625-49。ジェームズ1世の次男。妻はフランス王アンリ4世の娘。当初重用したバッキンガム公の失政のために財政が窮乏し、重課税政策を企てるが、議会の反発を受けて権利の請願を承認させられた(1628)。翌29年以降11年間議会を開くことなく、ストラフォードと大主教W.ロードを用いて専制政治を行ったが、主教戦争の戦費調達のために議会を招集した(→短期議会、長期議会)ことからピューリタン革命を招き、49年に処刑された。

『角川世界史事典』角川書店 2001年

 この人が、「去っていった人」ですね(マスグレーヴ家の儀式「僕の祖先のサー・ラルフ・マスグレーヴというのは有名な王党で、チャールズ二世の流浪時代にはその片腕と呼ばれた人です。」)

クロムウェル Oliver Cromwell 1599-1658

 イギリスの政治家、軍人。東部ハンティンドンのピューリタンの地主の家に生まれ、ケンブリッジ大学で学ぶ。1628年に庶民院議員。ピューリタン革命期には鉄騎隊を組織して名を挙げ、新型軍副司令官としてネーズビーの戦いで議会派側を勝利に導いた。対立する平等派やアイルランド、スコットランドの国王派を弾圧して国王チャールズ1世の処刑に賛成し、49年5月共和制を樹立した。51年航海法を定めて、第1次オランダ・イギリス戦争を起こした。53年終身の護国卿に就任、軍事独裁をしいた。

『角川世界史事典』角川書店 2001年

 鉄騎隊! 懐かしいなあ。しかもこれで今日の画像はきまり。


目次とその内容。

  • 第1章 友人たちの集まり
    • ナンアップルトンのトマスのもとへ反国王派議員の逮捕未遂事件が知らされる。
  • 第2章 別れ
    • 国王軍がハルの武器庫を入手するべく北征。ヨークで領主たちへ忠誠を求める。貴族たち分裂する。
    • トマスとアンの娘モルがミツバチに刺される。
  • 第3章 エリザベス
    • 国王がノッティンガムで軍を召集。サー・アトリーが少将として十四個の歩兵連隊、甥のルパート王子が十八個の騎兵中隊の指揮官となる。
      • 「ルパート」! もうこれだけで悪そう、強そう、野望のためには恩人さえも殺しそう! (ゼンダ城脳。)
    • 議会派第六十七騎馬中隊の隊長はイーストアングリアの名士オリヴァー・クロムウェル。王党派ヨーク守備隊長はカンバーランド公爵サー・トマス・グラハム。
    • 次女エリザベスが粟粒熱で死亡。アンはモルとともにトマスの遠征に随行することにする。
  • 第4章 タドカスター橋
    • トマスの部隊はブラッドフォードに到着。
    • 国王軍はオックスフォードに司令本部を置く。
      • このへんの地理がよく分からないんですよね。ブラッドフォードって、ヨークの西。
    • ヨークシャーの北、ニューカースルNewcastle伯爵がカンバーランド公爵に代わり王党派の北部軍司令官となる。カトリックも王に味方し、「ニューカースルのローマ教皇軍」が登場。
    • アンはブラッドフォードの「はやぶさ亭」に逗留し、騎兵隊司令官「黒んぼトム」の活躍を支える。
      • ヨークからの国王軍はカルヴァリン砲で攻城戦を始める。対する議会派はマスケット銃と槍のみ。この圧倒的な戦力差……というのも、知識がないのでいまいち実感として伝わってこないのですが、硬派サトクリフ先生はついてこない人をおいてきぼり! そのそっけなさがまた魅力なんです。
      • カルヴァリン砲よりも小さなセーカー砲というのもニューカースル軍は装備していて、基本は素人の議会派軍を圧倒的に上回ります。
    • 結局守りきれず、、南側とウェストライディング地方は放棄してウーズ川を新たな防御戦とする事になります。何言ってんのか全然分かりませんけど。
  • 第5章 白馬の騎士
    • トマスの軍はセルビーに到着。作戦本部は(ジョージ&ドラゴン亭)。
      • 旅籠は重要。
    • ブラッドフォードの毛織物職人たちは、棍棒の先に鎌の刃をつけた「鎌棒」と敢闘精神で街を守り抜く。トマスはブラッドフォードへ戻ることを決意する。
  • 第6章 魔法の国の妖精
    • トマスがブラッドフォードに戻る。近隣から志願兵が集まる。
    • ウィリアム・フェアファックスがブラッドフォードでトマスに合流するのにあわせてアンもブラッドフォードにゆき、トマスと再会。
      • 道すがら、ルパートの悪魔的魅力が語られる。カリスマ! ヒトラーを崇拝する少年兵のような気持ち! 「ルパートがいれば、連隊全体が――いや軍全体に熱意が伝染して、どんな犠牲もいとわないような雰囲気になってしまう。」
      • さすがルパートとしか。
      • さらにウィリアムはクロムウェルを議会派の「熱く燃える中核」と評する。彼の配下は「ほとんどが狂信的な再洗礼派(アナバプティスト)で、みんな馬盗人だが、兵隊としてはすごいやつやつばかりだ。この連中が議会派の騎兵隊の心臓部なんだが、いまのところ兵隊が八十名と将校が三人しかいない。」
        • 驚愕! 「鉄騎隊」は「家畜泥棒」の上級キャリアだった! (新ルールでは「家畜泥棒」なくなってしまった。なぜ?)
    • しかしトマスも負けず劣らず「白馬の騎士」としてなかば伝説の存在になりつつある。そうふるまおうとしなければならならない情況になりつつあるのでした。
    • そして「白い馬に乗れる者」の心の支えは、妻アン、すなわち魔法の国の妖精でした。ごちそうさまです。
  • 第7章 リーズ
    • ホザム大尉は隊長に任命されなかったとトマスにくってかかり、セルビーの作戦本部に送り返される。
    • 王妃(フランス王アンリの娘)がヨークに入る。
      • これみよがしに宮廷生活をひけらかして内乱など存在しないことを内外にアピールする。こういう人を主人公にしても面白いかもしれませんが、ドンパチよりもさらに難しそうです。
    • サー・ヒュー・チョムリーがヨークに寝返る。
    • ホザム大尉の父ホザムが北部最強の城であるキングストン・アポン・ハルを議会派に対して閉ざす。
    • トマスの父フェアファックス卿はセルビーを維持できなくなり本部をリーズまで後退させる。
  • 第8章 ウェイクフィールド
    • 斥候の報告では九百の守備兵のウェイクフィールドを、千名の歩兵と騎兵隊六個中隊と竜騎兵三個中隊で攻撃する。
      • 中国とかだと攻城で勝つには十倍の兵がいるとか言いますけれども、ヨーロッパではどうなのでしょうね。さりげなく、おそらくマスケット装備の竜騎兵がいるあたりかっこいい。
      • 攻めてみたら守備兵は三千。草葉の陰で孫子は泣いてますよ。
    • 奇跡的といってもいい勝利にトマスはイングランド全土に名を売りましたが、英雄の称号よりも議会からの資金融通やクロムウェル大佐の援護を欲しがる北部諸侯でした。
  • 第9章 戦陣の花
    • リーズのアンのところへウィリアムがたずねてくる。アンはブラッドフォードに戻ることを決意する。
      • ビーバー帽をかぶっているという描写がありますが、ビーバーって、あのビーバーでしょうか。うまく言えませんが、コサックダンスを踊る人がしっぽつきの毛皮の防止をかぶっていますから、ああいう感じで捉えていいのでしょうか。
      • 「軍隊につきまとう夜の女」といいますが、野営追行者Camp Follower のことですね。基本キャリアだ。貴族からはもっとも離れた存在。まあふつう止めますね。
    • ニューカースル伯爵の本隊がブラッドフォードを攻める。
    • アンは(一角獣亭)に行く。
  • 第10章 「清晨(あした)に汝のあわれみを」
      • ローズマリの花言葉は「記憶」。歴史小説作家にはふさわしい名前ですね。
      • ぶどうは、イエス・キリストが自らをぶどうにたとえたことを思い出すため。
    • 旅籠のおかみドロシー・シャープは王党派でありながら議会派の夫を戦場に送り出し、その無事を祈り、その子を身ごもっている。
      • 物語の全体にわたって、世代という問題が横たわっています。クロムウェルによる共和制と、その直後の王政復古を知っていると、その残酷さを感じてしまいます。問題もありますが、民主主義の、選挙による無血革命の保証というのはすばらしいシステムですよね。
    • 議会派軍はブラッドフォードから撤退。アンは攻撃に出たトマスを待つためブラッドフォードにとどまる。
  • 第11章 和平
    • ブラッドフォード防衛戦。和平交渉の最中にニューカースル軍が急襲。
      • 藤子不二雄の漫画教室の通り。急峻な上り坂がつづいてここがクライマックス。
  • 第12章 恩寵のハーブ
    • ブラッドフォード陥落。脱出に失敗したアンはニューカースル軍の捕虜となる