蜀犬 日に吠ゆ

2009-08-16

[][][][]故郷に出会う~~ローズマリ・サトクリフ『血と砂』上 原書房 16:48 はてなブックマーク - 故郷に出会う~~ローズマリ・サトクリフ『血と砂』上 原書房 - 蜀犬 日に吠ゆ

 読了。

 サトクリフのローマ・ブリテン三部作は、主人公たちが滅び行くローマ帝国と新しいブリトン・サクソンの国々とのあいだで自己の依って立つ場所を求めてゆく悩みが物語を悲しく彩りました。

 白馬の騎士は、自らの荘園のために戦う男と、その心に安らぎを与えたいとする女の物語。


 『血と砂』は、全てを失った男の物語。故郷を失うということは、全てを失うことにひとしい。では、失ったあとの人生はどのようなものになるのか。それは、故郷を新しく取り戻す、ということ。

  • 第一章 エジプトの戦い
    • 祖父のブルームリグ農園を父が処分したとき、全てを失ったと感じたトマス・キースは家を出て志願兵となり、オスマントルコ軍に敗れる。
  • 第二章 捕虜
    • トマスはアーメド司令官に買われて将校となる。
    • ドナルド・マクラウドもまた同じように軍医として遇される。
    • フランス砲兵大佐でオスマン軍事顧問のデジュリエの知遇を得る。
  • 第三章 コーラン
    • トマスはアスワンでベドウィン騎馬部隊とともに訓練を受ける。
    • デジュリエ大佐からコーランを贈られる。
  • 第四章 兄弟の絆
    • ベドウィン騎兵隊長のザイド・イブン・フセインのもとで訓練を受ける。
      • 馬泥棒をともに撃退したことから、ザイドとトマスは友情を感じるようになる。
  • 第五章 神はひとり
    • トマスは砂丘の瞑想で万物が一つであると感じ、信仰の指導者を求める。
  • 第六章 トゥスンとの出会い
    • トマスは馬泥棒から奪ったフランス製の十字軍時代の剣をデジュリエ大佐に贈る。
    • エジプト太守の長男イブラヒム長官殿がアスワンに来る。その弟トゥスン殿とトマスは仲良くなる。
      • それまでトゥスンの寵臣であったマムルーク、アジズはトマスに敵意をいだく。
  • 第七章 イスラム教徒
    • トマスはカイロに移る。トゥスンがトマスを買う。
      • 騎兵二連隊の訓練将校となる。
    • トマスは回収して割礼をすませ、イブラヒムとなる。
  • 第八章 後宮の宴
    • トマスはトゥスンの母アミナの晩餐会に出席する。
    • トゥスンの娘ナイリお嬢様とも会う。
  • 第九章 決闘
    • アジズに侮辱されたトマスは決闘を申し込み、アジズを殺す。
    • 決闘は正式なものであったが、トマスは将校殺害のとがで逮捕される。
  • 第十章 死刑の宣告
    • トマスの死刑は、オスマン帝国から来たアッバス長官殿の横やりが入ったためであった。
  • 第十一章 生への帰還
    • アミナ奥方はアッバス長官殿と面会して死刑を要求することを考え直させる。
  • 第十二章 トゥスンの婚礼
    • トゥスンが結婚する。
    • トマスはヌビア人の巨漢ムバラクと会う。素手で男のクビをへし折る筋力と猫のようにひそやかな足どりの男。
  • 第十三章 誘惑の夜
    • トマスはナイリお嬢様と夜に密会し、誘惑されるが拒否する。ナイリお嬢様はトマスに敵意をいだく。
  • 第十四章 ナイリの奸計
    • マムルーク護衛部隊のスレイマン・イブン・マンスールはナイリの情人(の一人)。愛人からそそのかされてトゥスンにトマスを讒言する。トゥスンはトマスを殺すようスレイマンに命じる。
  • 第十五章 刺客たちの襲撃
    • 十人の刺客がトマスの宿舎を襲撃。トマスは八人を殺し、二人は逃げる。
    • アミナ奥方はナイリお嬢様と牛のようなムスタファ殿との結婚を決める。
  • 第十六章 マムルークの壊滅
    • エジプト太守ムハンマド・アリは宴会に招いたマムルークをマスケット銃兵で虐殺する。
    • ドナルドは回収してオスマン医師となる。

 故郷を失ったトマスは、砂漠とイスラームに自分の居場所を見出します。生きてゆくために頼ることができるのは、射撃の腕前とわずかな友情のみ。しかし、その友情も不安定なものでしかなく、むしろ戦闘力が高くて昇進してしまったがゆえにつぎつぎと苦難・危難に襲われることになってゆきます。


下巻の感想につづく。



 エジプトを中心に話が展開するので、時おり用語にアラブ語系統のルビが振られます。

  • 司令官―アーガ
  • 三角州―デルタ
  • 旦那―エフェンディ
  • 長衣―ローブ (アラブ系統の言葉ではないけれど、ここではトルコ風の長衣をさします。)
  • 高地地方―ハイランド (これはスコットランドの地方名)
  • 外衣―アバ
  • 丸屋根―ドーム
  • 光塔―ミナレット
  • 祈禱告知係―ムアッジン
  • 唐草模様―アラベスク (「唐草」だけでもアラベスク)
  • 皇帝―スルタン
  • 指導者―カリフ
  • 白装束―ソーブ (眠るときや、下着として着るらしい。)
  • 了解―アイワ
  • 上官殿―シディ (命令されたら「アイワ、シディ」と返す。「イエス、サー」のようなものでしょうか。)
  • 章―スーラ (コーランの章のこと。)
  • 長官殿―パシャ (そしてパシャが司令官とあてられる時もありまして、アーガとの相違は不明。)
  • 殿―ベイ (「トゥスン殿」「アジズ殿」のように、呼びかけのとき名前のあとにつける。)
  • 広場―マイダーン
  • 迫持―アーチ (これはムーア式とあるのでヨーロッパとは異なるデザインの建築なのでしょう。)
  • 縞瑪瑙―オニキス (これはギリシア系統)
  • 後宮―ハーレム
  • 寺院―モスク
  • 識者―ウラマー
  • 小部屋―アルコープ
  • 族長―シャイフ
  • 魔王―イブリス
  • 外着―バーヌース
  • 部屋着―ディスダシャ
  • 月下香―チュベローズ
  • 医師―ハキム (丁寧に「アルハキム」とするときもある。たぶんアルは冠詞。)
  • 殿―エフェンディ (「オスマン殿」のように呼びかける。ベイとの相違は不明。)


追記

 表紙のイラストが、アラビアのロレンスの映画にそっくりなのはなぜでしょう。

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