蜀犬 日に吠ゆ

2009-10-26

シャノア

[][][]ワイス、ヒックマン『ドラゴンランス』1 角川つばさ文庫(その2) 20:32 はてなブックマーク - ワイス、ヒックマン『ドラゴンランス』1 角川つばさ文庫(その2) - 蜀犬 日に吠ゆ

竜(ドラゴン)の頌歌


耳かたむけよ、賢者の歌に。

其は、天の雨、天の涙がごとく降り注ぎ、

其は、過ぎし年月、

〈竜槍(ドラゴンランス)の古譚〉に積もりたる古きほこりを清めたり。

記憶も言葉も届かぬいにしえの、

この世の初めの夕映えに、

三つの月ぞ森の端より昇り来ぬ。

たちまちものすさまじき竜の群れ、

クリンの大地に攻め寄せり。


されど竜の闇のその中より、

昇る黒き月の漠たる面に、

光求めるわれらの叫びの中より、

埋もれし光ぞ、ソラムニアにて燃え上がる。

其は真理と力を備えし騎士

神々さえも呼びおろし、

毅き〈竜槍〉をきたえし者。

刺し貫くは竜族が魂なれば、翼影すべて退散し、

クリンの岸辺輝けり。


ソラムニアの騎士にして、

光の騎手たる一の槍将ヒューマ、

光に従い、カルキスト連峰の山すそへ、

神々の石のもすそへ、

その神殿の、こもれる静寂(しじま)のもとへおもむきけり。

〈槍(ランス)の匠〉に呼ばわりて、

至上の悪をも砕く、至上の力を授かれり。

とぐろ巻きたる暗黒を、

竜ののど元に押し戻さんとす。


〈大いなる善神〉パラダイン、

ヒューマのかたわらにて光を放ち、

その強き右手の槍に力を与う。

千の月の光を浴びたるヒューマ、

〈暗黒の女王〉を駆逐せり、

配下の哮る大軍を駆逐せり。

出で来し混沌の死の王国へと。

彼の地こそ明けゆく地上のはるか下、

呪いも無を襲いて、無に帰する処。


かくて雷鳴とどろき、〈夢の時代〉は幕を閉じ、

開かれたるは〈力の時代〉。

東に興るは光と真理の王国イスタル。

白と金との尖塔は、

日輪と、その栄光めざしてそびえ、

悪の消滅を宣言す。

善の長き夏を養い育てしイスタルは、

流星がごとく輝けり。

正義の白き天空に。


されど陽光満つるその中で、

イスタルの神官王、暗き影を見る。

夜陰の木立に短剣をかざせるを、

沈黙の月下に流れが黒くにごれるを見る。

神官王は書(ふみ)に問う、巻き物、徴(しるし)、呪文の書に問う、

ヒューマの道は如何に、と。

叶うことなら神々に再臨願いて、

聖なる志に助力乞い、

罪の世を浄化せんものと。


されど、神々背を向けたまえれば、

この世に闇と死の刻(とき)訪(おとな)えり。

火の山はすい星がごとくイスタルをなぎ倒し、

都は炎にくべたるどくろのごとく割れ、

山は肥沃なりし谷より裂け、

海は山の墓所に流れこみ、

砂漠は放棄されたる海底に沈む。

クリンの大路は砕け散り、

死者の隘路と化せり。


かくして〈絶望の時代〉ぞ始まる。

道は乱麻とからまりて、

城址にすまうは風、砂嵐。

われら山、平原に住み処を求む。

古き神々の力失せたまいければ、

われらの呼ばわるは空漠の天、

冷たく分かつ薄明に、新しき神々の耳聞きたまえるや。

天は静穏、黙して不動。

応えはさらに待たねばならぬ。

ワイス、ヒックマン『ドラゴンランス 廃都の黒竜』上 角川つばさ文庫

 いきなり長いよねえ。これ、散文調で「プロローグ」とかいうわけにはいかなかった、のでしょうね。作中でも騎士スタームがときおりこの頌歌を思い出していましたから。