蜀犬 日に吠ゆ

2010-02-02

[][][]蛇の章を読む(その24) 21:48 はてなブックマーク - 蛇の章を読む(その24) - 蜀犬 日に吠ゆ

かれを賤しい人であると知れ

 前回の終わりから。師ブッダが「賤しい人」とな何かを解きます。

第一 蛇の章

七、賤しい人

 「バラモンよ、ではお聞きなさい。よく注意なさい。わたくしは説きましょう。」

 「どうぞ、お説きください」と、火に事えるバラモン・バーラドヴァージャは師に答えた。師は説いていった、、

中村元『ブッダのことば』岩波文庫

第一 蛇の章

七、賤しい人

一一六 「怒りやすくて恨みをいだき、邪悪にして、見せかけであざむき、誤った見解を奉じ、たくらみのある人、――かれを賤しい人であると知れ。

一一七 一度生まれるもの(胎生)でも、二度生まれるもの(卵生)でも、この世で生きものを害し、生きものに対するあわれみのない人、――かれを賤しい人であると知れ。

一一八 村や町を破壊し、包囲し、圧制者として一般に知られる人、――かれを賤しい人であると知れ。

一一九 村にあっても、林にあっても、他人の所有物をば、与えられないのに盗み心をもって取る人、――かれを賤しい人であると知れ。

一二〇 実際には負債があるのに、返済するように督促されると、『あなたからの負債はない』といって言い逃れる人、――かれを賤しい人であると知れ。

一二一 実に僅かの物が欲しくて路行く人を殺害して、僅かの物を奪い取る人、――かれを賤しい人であると知れ。

一二二 証人として尋ねられたときに、自分のため、他人のため、また財のために、偽りを語る人、――かれを賤しい人であると知れ。

中村元『ブッダのことば』岩波文庫

 これも、やはり通俗道徳に過ぎないのではないでしょうか。もう一歩、通俗の道徳を成り立たせている理論へ抽象化してもらいたいものですねえ。

 註。一一七。

 ここではあわれみ(daya)を重んじている。この見解によると、「鳥獣を殺すこと」はすべて善くない、悪なのである。仏教の説く不殺生は、人間を殺してはならぬということが第一であるが、理想としては生きものをすべて殺さぬことをいう。不殺生の思想はジャイナ教のみならず、バラモン教にも部分的に存し、叙事詩においても説かれているが、仏教はそれを受けたのである。

中村元『ブッダのことば』岩波文庫

 一一八 国王とか将軍というものは、一般に侵略者であるが、仏教は伝統的に国王や武士を嫌悪していたが、その態度がここに見られるのである。

中村元『ブッダのことば』岩波文庫

 自分がクシャトリヤだったことが無関係ではありますまい。出家出世しなければ、こうした悪に手を染めていたという恐れがあったのでしょう。

 一一九

 仏教やジャイナ教の起ったビハールやウッタル・プラデーシ州には、山というものがない。ただ、のっぺらぼうな平野がつづいているだけである(ビハール州には稀に山岳の見えるところがあるが)。だから、村ならびに耕地の外には林があるだけである。そこで、このような表現が成立しうるのである。

 仏教では国王と盗賊とは本質的に区別のないものであると考えていた(この点ではシナの墨子と共通である)。だから、第一一八詩で国王を非難し、つづけて盗賊を非難しているのである。

中村元『ブッダのことば』岩波文庫

 なるほど。しかし中国の盗賊というのは大きく反乱軍のようなものも指しますし、「まつろわぬ民」という感じでもありますからね。

 国王と盗賊は区別がない、どころか大盗賊の首魁が狙うのは天下であり、それが成功した事例もしばしばあるとなっては、国王とは(シナでは皇帝)そのまま盗賊といっていい場合もあるのです。

 師ブッダがいうのはもうすこし理念的に、自らは働かず、暴力を背景にして税と称する財産の強奪を行うてんで国王や武士は盗賊であるというのでしょうね。

一二〇 当時は、貨幣経済が発展し、金銭の貸借関係も成立していたために、このような教えが成立したのである。

中村元『ブッダのことば』岩波文庫

一二一 盗むために人を殺すなどというのはもってのほかである。インドでは旅人を襲って殺す山賊は、他国に較べて比較的に少かった。山賊は現代に至るまで存在したが、人を殺す割合は低かった。しかし、山賊がいたことは事実であるから、それがここに反映しているのである。現代インドでも若干の峠は盗賊の出る名所として知られている。古代インドにおいてはなおさらであったろうから、それを戒めているのである。

中村元『ブッダのことば』岩波文庫

 一二二

 インドでは、日常生活のうちに法律の果たす役割は少かった。西アジアやヨーロッパに比べて法廷はさほど大きな意義をもっていなかった。そこで「偽証をなすなかれ」という教えの説かれることは少かった。その稀な事例の一つがここに見られるのである。

中村元『ブッダのことば』岩波文庫

 インドは宗教の文明であるとも言われますからね。人間のつくり出した約束事を軽んじたりするのでしょうか。