蜀犬 日に吠ゆ

2010-03-05

[][][]片腕の戦士~~サトクリフ『太陽の戦士』岩波少年文庫 19:31 はてなブックマーク - 片腕の戦士~~サトクリフ『太陽の戦士』岩波少年文庫 - 蜀犬 日に吠ゆ

 書き出しを読んでいて、なぜか大東鉄人先生を感じました。

物語のまえに

 青銅器時代――このことばは強い魔力をひそめている。このことばをきくと、武器が打ちあわされ、馬のひづめや戦車の車輪が緑の尾根の道をなりとどろかすさまが心に思いうかぶ。家家の炉ばたでは、たてごとがかなでられ、女たちは戸口で機織りにいそがしい。族長の葬いの火から立ちのぼる煙は、やがて風に吹きはらわれていく。

 それはほとんどそのままホメロスのえがくギリシャだといってよい。

 そして、そこにこのことばの魔力の秘密がかくされているのだと、わたしは思う。

サトクリフ『太陽の戦士』岩波少年文庫

 そんなに似てもいませんか。

物語のまえに

 この物語の主人公は、キリスト降誕前九百年頃、今日のイングランドの丘陵地帯に部族の人たちといっしょに住んでいたドレムという少年である。

サトクリフ『太陽の戦士』岩波少年文庫
物語のまえに

 外の世界では、もうその三百年も前にトロイが倒れ、エジプトはその最盛期を過ぎていた。やがてにごった川の浅瀬のかたわらにむらがる丘のあいだのくぼ地に、あらっぽいラテンの牛飼いたちがテントを張り、ローマを建設するまでには、まだ百年以上も待たなくてはならなかったが、おそらくドレムはそのような世の中の移りかわりを知るよしもなかったのである。

サトクリフ『太陽の戦士』岩波少年文庫

 中国だと、青銅器時代というのは『封神演義』みたいな話になってしまうのでしょうか。中国では鉄の普及はオリエントに比べて遅く戦国時代にですから、春秋戦国時代の物語は青銅器時代なのでしょうけれども、『史記』なんてのは「人間ドラマ」であって「英雄叙事詩」的な、魔法のことばで紡がれた物語とは言いづらいですからねえ。

物語のまえに

  1. 緋色の糸
    • ドレムは羊飼いのドリの話を聞く。ドリたち羊飼いはターヌの子孫で、色が黒く、小さい。ドレムたち戦士は羊飼いを支配する金色の肌の人々。
      • おそらく「ターヌの子孫」というのがビーカー族とかそういうイングランド先住民で、金色の巨人というのが青銅器文明を持ち込んだブリトン人、になりますかね。
        • まあ、ケルト人もブリトン人なのだけれど。鉄器をもって後からやって来たケルト人を、ローマ人がブリトン人と呼ぶから混乱する。
      • ピクト人、などというのもスコットランドにいましたね。一体どこから湧いて出たのやら。
    • ドリ「巨人たちがやってきた。青銅の大槍をもっていたから、わしらの石の槍は枯れたアシも同然」
      • ターヌの子孫、というのはストーンヘンジなんかを造っていた石器時代の先住民でよさそうですね。
      • そして先住民と巨人たちは混血人となる。
    • ドリ「それからのことだ、おまえさんたちがやってきたのは。そしておんなじようにおまえさんたちは、むかし巨人がわしらをあつかったように、巨人たちの子孫をあつかったんじゃ。」「ターヌの子孫も、巨人の子孫もな。わしらはおまえさんがたに仕えている。」
      • うぅむ。とするとこっちがいわゆるブリトン人ということになりましょうかね。それとも鉄器時代前のケルト人たちでしょうか。よくわからない。
    • ドレムは家に帰るが、うっかり祖父が「片腕のドレムは戦士になれない」というのを聞いてしまい、家出する。
  2. 狩人タロア
    • 林の中でタロアに出会ったドレムは、弓を引けない代わりに投げ槍の練習を始めることにする。
  3. はじめての猟
    • タロアの猟犬の子を欲しがったドレムは、白鳥を投げ槍でしとめる。
  4. ノドジロの値段
    • 同じ犬の子を、族長の弟の息子であるルガも欲しがり、族長の弟モルビッドは値をつり上げる(銅の鍋と、麻布)が、タロアは先約を尊重してドレムに犬を譲る。
  5. 短剣と火
    • 村に旅人がやって来る。混血のアープは「小さなアープは地面に耳をつけていた。『馬だ。』アープはいった。『地面は馬だといっている――二ひきだな――それに人がひとり、それだけだ。』」
      • OH! NINJA! か、もしくはブリテン柳生。
    • 旅人で、商人で、かじやの男は村人に鉄の短剣をみせる。「大海のむこうの霧の林の国に住む黄色い髪の巨人にひどくぼられましたよ」
      • ドイツやオーストリアあたりの、ハルシュタット鉄器文明のことでしょうか。アーリア人種の。
    • かじやの鉄の剣は族長の青銅の剣と打ちあわされ、族長の剣にだけ刃こぼれが生じる。
      • タロア「そのうち、このような武器で武装したものが、青銅の武器をもつものを従えるようになるだろう。」
      • 祭司のマイダー「この新しい魔術は気に入らん。このつめたい金物がいつか青銅を従えることのないように。」「わしらは太陽の民だ。青銅は太陽に属するもの、このつめたい鉄は、たかが地に属するものにすぎぬ。小さな黒人どもが青いヒウチ石の民であるように、わしらはかがやく青銅の民なのじゃ。やつらの時代がヒウチ石の時代だったように、わしらの時代は青銅の時代なのだ。そして鉄が支配する世の中では、わしらはもう力を失うのだ。ああ、ああ、それはつめたい灰色の世界だ」
        • 約300年後には、そうなるんですよ。ついでに、鉄器時代はいまだにつづいています。
    • ところで、ドレムの家で下働きをしている少女ブライは、赤ん坊のころ旅人の父親が村に捨てていった混血人。いじめられると「いつか、いつかはきっと、とうさんはあたいを迎えにくる!」と言葉に出して耐え忍んでいる。
    • かじやはブライを呼び止めて、その顔を確認。祭司のマイダーはかじやを思い出す。かじやは祭司を横目で見た。「ああ、あの家はおぼえているともさ。」かじやはいった。「だがこんなにちかいとは思わなんだ。」
    • 「おい、何をまっているのだ?」よそものはいった。そしてじろじろブライをみている口もとには、ゆっくりとむごいわらいがうかんできた。「そうか。そういうつもりだったのか。おまえはこのわしが迎えにやってきたとでも思いこんだのだな。このチビのばかめが。わたしはおもえのことなど、この夕方になるまで思いだしもしなかったわい。もしそうだとしたって、なまっちろいおまえのようなやつには、なんの用もありはしない。」そして男は頭をそらしてわらった。陰気な、よこしまな、爆発するようなわらいだった。
      • 「陰気な爆笑」というのはなかなかに個性的ですね。しかし自分で呼び止めておいて物乞いあつかいはひどい。
      • すかさずルガが、(ヤな奴って、こういうところはずさないよなあ。)ブライの高い銀のような声をまねしてどなった。「いつか――いつかとうさんがくるんだから――だとさ、やあい、それであたいを金の馬具をつけた馬にのせてつれていくんだからね。」
        • 世の中なかなかハリー・ポッター的シンデレラ・ストーリィにはならないものです。
    • 走り去るブライ。追いついたドレムに、「とうさんには何か起こったんでこられないんだよ。もうこないよ、もうこやしない。」ブライはいった。
  6. わかものの家
    • 十二歳になったドレムは戦士になるためわかものの家で暮らすことになる。
      • 同年代としては、族長のむすこボトリックス、丸い顔のゴールト、それからルガ、ウリアン、メルガン、トウアンがいる。
    • わかものの家に集合したところで、ルガにからかわれたドレムはけんかを買う。たちまち少年たちはドレムに襲いかかるが、ボトリックスだけはドレムに味方する。
      • けんかのあと、ドレムはボトリックスと怪我を見せ合い、血の混じったきょうだいであることを確認する。
  7. 新王の即位
    • 王が死に、新しい王が即位するために、各地の族長が城に集結する。ドレムたちわかものは、族長ダムリノックスの「猟犬」として随行する。
    • 死んだ王が埋葬され、新しい王が宣言する。「わたしが王だ!」「そうだ、王だ!」さけび声がかえってきた。「わたしが王だ! おまえたちはわたしの戦士だ。さあ、忠誠を誓ってくれ!」「王よ、もしわれら誓いをやぶることあらば、緑の地ひらけ、われらをのむべし。灰色の海あふれてわれらをのむべし。空の星おちて、われらの生命をたつべし。」
      • 古代ゲルマン社会は「王家」ではなく「王」個人に仕える「従士」たちが戦士でありましたが、ブリトン人たちも似ているのでしょうかね。新しい王があらわれると、新たに契約をし直すわけでしょう。
        • 日本でも、ながらく忠誠心の属人性というのが強調されていたから、江戸時代初期に禁止令が出されるまで、追い腹というのが美化されてきたのでしょう。
  8. 猟犬の戦い
    • 族長ダムリノックスは別な族長ブレイゴンのもつ鉄の短剣を目にして、ブレイゴンがかじやに飲ませて博奕でとりあげたものと知る。そのときの言葉尻から、両陣営に険悪な雰囲気が発生。
      • 王は争いの仲介に入り、両者の犬同士を戦わせて決着をつけるようにする。
      • ノドジロが選ばれそうになったドレムは、自分たちが「族長の猟犬」であることから、3組目は人間同士の戦いにするよう提案する。
      • 戦いは引き分けにされ、問題の発端となった鉄の短剣は、王が没収。
  9. 黒い小石
    • ドレムたちは一人前の戦士であることを証明するためオオカミを狩る。
    • ドレムはオオカミに組み伏せられ、ボトリックスが手助け(横槍!)をしたために戦士の資格を剥奪され、混血人たちとともに羊飼いとなる。
  10. 別れ
    • ドレムはドリの小屋に行き、羊飼いになることを告げる。
    • オオカミを殺したわかものは戦士となる儀式に出かけ、ドレムはそれを見送る。
  11. 村のニュース
    • ドレムの兄のドラスティックや、ボトリックスが嫁を取る。ドレムは一層、戦士たちとの距離を感じる。
  12. オオカミの見張り
    • 不作の冬にはオオカミたちも羊を数多く襲う。
  13. 灰色の親分
    • 群れをはぐれた雌羊をさがすため雪の中に出たドリが戻ってこないので、ドレムが捜しに出かける。崖から転落したドリと雌羊を、オオカミがねらうが、ドレムはそのリーダーを殺す。
  14. 戦士の緋色
    • ドレムは、かつて殺しそこねたオオカミを改めて殺したことで戦士として認められ、村に戻ることになる。
  15. 太陽の花
    • ドレムはベルティンの祭で、ブライをダンスに誘う。
      • 終わり。

訳者のことば