蜀犬 日に吠ゆ

2010-03-09

[][][][]憲問第十四を読む(その18) 17:22 はてなブックマーク - 憲問第十四を読む(その18) - 蜀犬 日に吠ゆ

陳成子、簡公を弑す

 憲問第十四(333~379)

354 陳成子弑簡公。孔子沐浴而朝。告於哀公曰。陳恒弑其君。請討之。公曰。告夫三子。孔子曰。以吾従大夫之後。不敢不告也。君曰。告夫三子者。之三子告。不可。孔子曰。以吾従大夫之後。不敢不告也。

(訓)陳成子、簡公を弑す。孔子、沐浴して朝し、哀公に告げて曰く、陳恒(ちんこう)、その君を弑す。請うこれを討たん。公曰く、夫の三子に告げよ。孔子曰く、吾れは大夫の後に従うを以て、敢て告げずんばあらざるなり。君は曰う、夫の三子者に告げよ、と。三子に之(ゆ)きて告ぐ。可(き)かれず。孔子曰く、吾れは大夫の後に従うを以て、敢て告げずんばあらざるなり、と。

(新)斉の陳成子が、その君簡公を弑した。孔子が沐浴して身を清め、参内して魯の哀公に告げて曰く、斉の陳(成子)恒がその君を弑した。願わくは魯の兵を率いてこれを討伐されたい。公曰く、私の三人の大臣に計ってほしい。孔子曰く、私は家老の席末に列(つらな)っている者ですから、職責上、このように申し上げなければならなかったのですが、上のお言葉は、三人の大臣に計ってほしいとのこと、確かに承りました。そこで三人の大臣の所へ行って同じことを申し入れたが、みな却下された。孔子曰く、私は家老の席末に列っている者ですから、このように申し上げなければならなかっったのです。(決して差出がましく口を利いたのではありません。)

宮崎市定『現代語訳 論語』岩波現代文庫

 不在其位。不謀其政。ということ。

 夫三子、とは、いわずもがなの三桓氏。孔子略年表にもありますが、哀公は、孔子が二度目の流浪から帰った後の魯の君主。孔子は再仕官しましたが、名誉職のような扱いでした。なので普段は出仕せず、隠居状態にあったのだとされています。

 斉の陳成子が君を弑殺したのはBC481、哀公十四年、孔子七十二歳。前年に顔回が没し、めっきり老け込んだ頃です。哀公十五年には子路が殺され、十六年には孔子もこの世を去ります。


 下克上は、弑殺は、社会秩序への明らかな叛意であり、孔子が斉への侵攻というおよそ不可能な献策を行ったのは、名分を糺すということと、三桓氏への皮肉があったのでないでしょうか。

 陳恒とは、陳成子の実名である。君主のまえでは、自国の臣下をも、他国の臣下をも、実名で呼ぶのが、礼の掟である。魯は小国であり、斉は大国である。しかし不正は武力にうったえてでも、ただされねばならない。黙視することはできない。

 事がらは、もとより困難であった。また魯のくにの実権は、哀公の手にないこと、隣国の斉と同じであり、季孫、叔孫、仲孫、三人の家老の手にあった。

吉川幸次郎『論語』下 朝日選書

 封建領主たちは、王位簒奪という事件の重大さを、あまりに軽視しすぎです。このころ春秋の各国では同じように有力な大夫たちの専横が起きており、その結末がクーデタになることが、いわば斉の実例で明らかになったというのに。

 もちろん簒奪者たちもまた、己れの実力を過信して政権を奪ったわけですが、、多くの国でそうした下克上を誘発した挙句に戦国時代を招いてしまうわけです。


 孔子は、大義を掲げる「対斉大同盟」から主張するという手もありましたが、それでは現実的で採用されるかもしれなかったのであえて単独征伐という理想論を述べたのかもしれませんね。それが、その時点での孔子自身の分際ですから。

 対仏大同盟は、逆に下克上への恐怖を煽ることでフランスの拡大路線を抑えたいイギリスの戦略であり、王の血統なんぞどうでもよかったわけです。どっちもうまい。

対仏大同盟

 フランスといえば、大陸一の人口と兵力を擁した大国である。その臣民が動乱を起こしたのみならず、ついに国王が処刑された。ニュースは、ヨーロッパ王侯貴族のあいだを走りぬけた。イギリスが、反革命諸国側についてフランスを叩くべく参戦を決意する。(略)しかしイギリスにとって、国王の処刑は参戦のきっかけ、ないし口実に過ぎなかった。というのも、一七九二年から攻勢に転じたフランスは、十一月にはベルギーを占領し、革命の防衛から革命の輸出へと、その戦争の意味づけを変えつつあったからである。(略)ベルキーを革命フランスによって制圧されることは、戦略上イギリスには認めがたいところだった。それに国内の急進派が、フランス革命の動向に刺激されて、反政府の活動を強めつつあった。イギリス首相ピットは、すでに十二月なかばから、議会の了承のもとに参戦の準備に取りかかっていたのである。

 こうして九三年春から夏にかけて、革命フランスを取り囲む軍事共同戦線がはられた。対仏大同盟といわれる。

五十嵐武士/福井憲彦『アメリカとフランスの革命』世界の歴史21 中央公論社
世界の歴史 (21) アメリカとフランスの革命

世界の歴史 (21) アメリカとフランスの革命