蜀犬 日に吠ゆ

2010-04-16

[][][][]ドラゴンクエスト~~酒見賢一『泣き虫弱虫諸葛孔明』第壱部 文春文庫(その4) 21:04 はてなブックマーク - ドラゴンクエスト~~酒見賢一『泣き虫弱虫諸葛孔明』第壱部 文春文庫(その4) - 蜀犬 日に吠ゆ

 劉備が孔明を迎えに行きます。龍の捜索。

孔明、三顧に臨み、隆中、歌劇場と化す

 『三国志演義』の臥竜出廬のくだりは、次から次に襲いかかる謎また謎の、ほとんど推理小説の趣もあり、確かに謎だらけで、名探偵劉備が(バイオレンス刑事の張飛でもいいけど)真相を解明してくれなければ夜も眠れなくなるほどに謎に満ちている。「臥竜岡の秘密」「臥竜殺人事件」とか秋の夜長に分厚い一冊が編集できそうである。一番の謎は、ただ孔明に会おうというだけの劉備に明らかに共謀故意らしき、次々に謎めいた人物が接触して、しかし犯人(じゃないけれど)の孔明はその姿をちらりとも見せようとしないところにある。劉備よ、主人公ならこの謎を一刀両断にしてくれ!

酒見賢一『泣き虫弱虫諸葛孔明』第壱部 文春文庫 p554-

 しかし、玄徳の武器は二刀流なのでした、ちゃんちゃん♪

第一回

二人はこれを聞いて、一かたならず喜び、すすんで良馬五十匹、金銀五百両、鉄一千斤をおくり物として用立てたいと申し出た。玄徳は礼をのべて二人を送り出すと、鍛冶屋に言いつけて、二本合わせの剣を打たせ、関羽はなぎなた青竜偃月刀、又の名は冷艶鋸というのを作らせた。重さは八十二斤。張飛は一丈八尺のほこ点鋼矛を作らせ、それぞれよろい、かぶと一そろいをととのえ、合せて五百人余りの義勇兵を集め従えて、

小川環樹 金田純一郎『完訳三国志』一 岩波文庫
完訳 三国志〈1〉 (岩波文庫)

完訳 三国志〈1〉 (岩波文庫)

 また脇道にそれますが、張飛の蛇矛も、おかしな武器といえば武器ですよね。

 西洋でいえば、フランベルジュ。フランベルジュって、鞘をどうするのか昔からすごく不思議だったのですが、儀式用の刀だと考えればどう使ったのかは悩まずにすみます。しかし、蛇矛は、なにかいい事ある武器なのでしょうか。さんごくし探偵酒見賢一、推理が冴えます。

孔明、思いを宇宙に致し、泣いて劉皇叔を虜となす

「もらったぜ。おれの蛇矛も血を吸いたがって、泣いてやがる」

 張飛はくねくねした刃をべろりと舌で舐めた。

 気になると言えば張飛の一丈八尺の蛇矛である。張飛の蛇矛は、簡単に言えば柄に蛇のようにくねった穂先がついた変形槍なのであるが、そのくねり刃は使い勝手から見てもあまり意味のなさそうな珍兵器ではある。これは張飛が鍛冶屋に特注して鍛たせたものであり、張飛に何故かと訊けば、

「こいつで斬られたら傷はふさがんねえぞ。斬られた奴らが苦しみのたうつのがたまらねえじゃねえか。ほんとうはノゴギリ刃をつけたいところだが、戦さ場じゃ押し引きしている間はねえからな」

 とただの残酷趣味、Sなことを率直に答えるはずだ。おそらく。

酒見賢一『泣き虫弱虫諸葛孔明』第壱部 文春文庫 p602-

 なるほど、深く納得。


 閑話休題

孔明、三顧に臨み、隆中、歌劇場と化す

 建安十二年(二〇七年)冬。

 ついに劉備玄徳が臥竜岡を訪れる秋(とき)がきた。

酒見賢一『泣き虫弱虫諸葛孔明』第壱部 文春文庫 p554-

孔明、三顧に臨み、隆中、歌劇場と化す

 このとき劉備は三千の兵を引き具したという説もあるが、それではほどんど戦さ支度である。山賊退治にもそんなに兵はいらないだろう。ある並行宇宙世界の『三国志』では、大げさではなく狂気の魔術師孔明と臥竜岡を衛る自動装甲機兵との合戦が予想されたのかも知れぬ。何事も用心するに越したことはない。

酒見賢一『泣き虫弱虫諸葛孔明』第壱部 文春文庫 p554-

 最初のトラップは、農民達のうたう歌。農作業で忙しいだろうにいちいち劉備に聞き取れるように歌う。

孔明、三顧に臨み、隆中、歌劇場と化す

 劉備は(略)

(なんだ、このまがまがしいまでに脱力感あふれる、世の中を馬鹿にしくさった旋律は)

 舌打ちし、馬を止めて歌っていた農夫に訊いた。

「その(聴いていると能が腐りそうな)歌は誰がつくったのか」

「へえ、臥竜先生がつくった歌でございます」

 との返事。劉備は

(やはりそうか)

 と思った。

酒見賢一『泣き虫弱虫諸葛孔明』第壱部 文春文庫 p554-

 しかし、農夫と話してしまったことで、すでに孔明の罠にかかりはじめていることに、劉備はまだ気づきません。げええっ、劉備、にげてー!

孔明、三顧に臨み、隆中、歌劇場と化す

 返り見て、口ごもりがちだった不審な農夫の態度に、張飛の目がぎらりと光った。

「わかってきましたぞ。どうやらわれらが潰すべき悪党がおる、ということなのですな、兄者」

 酒に飢えた狂虎の目であった。

「そういうことなら、一日酒を止められたくらい、なんのことはない」

 この三人、まだ尻の青い頃、悪党(たいてい金持ち)の噂を聞くと、正義のために天誅を加えて回った(解釈にもよるが見た目は強盗)若気の至りの過去がたんとある。鼠小僧か五右衛門か、義侠なんだから仕方がない。

酒見賢一『泣き虫弱虫諸葛孔明』第壱部 文春文庫 p554-

孔明、三顧に臨み、隆中、歌劇場と化す

 乱暴者は張飛だけではない。劉備だって督郵(いちおう汚職役人)をリンチにかけて逃亡したことは『三國志』にきっちり書かれている。

酒見賢一『泣き虫弱虫諸葛孔明』第壱部 文春文庫 p554-

 しかしあいてはなにせ孔明ですからねえ。劉備三兄弟、危地に入る!


 しかし、孔明は留守。これも孔明の罠。

孔明、三顧に臨み、隆中、歌劇場と化す

 中国拳法によくある入門話では、一度追い返されたくらいであきらめるようでは失格で、雨が降ろうが嵐になろうが、会えるまで何十日でも門前に座り込むのが礼儀で心意気のはずであるし、イメージとして劉備ならやりかねないのだが、このときそんなことはまったくしていない。やる気あんのか、といったら、ない、ということであろう。

酒見賢一『泣き虫弱虫諸葛孔明』第壱部 文春文庫 p554-

 しかし、劉備って基本的に「来る者を拒まず」で受け入れて、それが有能である、というイメージですよね。本当に、孔明に三ベン会いに行ったのは例外中の例外ではないでしょうか。関羽や張飛とどうやって意気投合したのか知りませんが、ほかにも趙雲なんて勝手についてきただけですし、陶謙のところにいたとき糜竺とか孫乾がついてきましたし、黄忠にせよ馬超にせよ、こんなに情熱をもって迎えに行った人って、いませんよねえ。

 帰り道に崔州平と会うも、ごく軽い感じのスカウトしかしませんしね。

孔明、三顧に臨み、隆中、歌劇場と化す

「孔明どののことは仕方ありますまい。それより先生、先生のご見識もただならぬものがありとお見受けいたした。よろしければ、みどもを手伝ってくださるまいか」

 とハントを開始した。かっこよさそうなやつがいたら、二の口からは誘いの言葉を述べるのは、これまた劉備の癖である。同じく人材を求めるにしても曹操とは違っていて、たとえて言えば劉備は町で可愛い娘を見掛ければほとんど条件反射的に、

「ねえ、お茶しない?」

 と声をかけるのが当然のマナーだと思っているくらいに軟派な男であった。(略)後々、龐統に声をかけずに失礼しちゃうのは、龐統のかっこが悪かったからか。しかしお目当ての娘が留守だったからといって、間髪入れずにその娘の友達に声をかけるというのもどうかと思う。げんに崔州平は、

(略)

「あたしはフリーが好きなの。まえはとにかく、今は彼氏なんか、欲しいとも思わないんだから。シーユーアゲーン」

 失礼しちゃうわ、ぷんぷん、と言っているのと同じだ(と思う)。劉備にデリカシーなし。

 劉備は関羽、張飛に、ちぇっ、振られちゃったぜブラザー、と照れ笑いしながら振り返った(ように見えた)。張飛が

「ちっ。孔明とやらには会えず、あんな腐れ儒者にながながとたわ言をほざかれてしまったぞ」

 と忌々しそうに言った。焼いているのか、張飛翼徳。

酒見賢一『泣き虫弱虫諸葛孔明』第壱部 文春文庫 p554-

 そしてすべてが、孔明の罠という恐怖。

泣き虫弱虫諸葛孔明 第壱部 (文春文庫)

泣き虫弱虫諸葛孔明 第壱部 (文春文庫)



[][][][]衛霊公第十五を読む(その23) 20:43 はてなブックマーク - 衛霊公第十五を読む(その23) - 蜀犬 日に吠ゆ

君子は小知せしむべからず

 衛霊公第十五(380~420)

412 子曰。君子不可小知。而可大受也。小人不可大受。而可小知也。

(訓)子曰く、君子は小知せしむべからずして、大受せしむべきなり。小人は大受せしむべからずして小知せしむべきなり。

(新)子曰く、諸君は細かい所には気がつかぬでもそれでよろしい。大局的な判断を誤らぬようになりなさい。もし大局的な判断が正しくできぬなら、どんなに細かい所に気がついても教養ある君子とは言えぬ。

宮崎市定『現代語訳 論語』岩波現代文庫