蜀犬 日に吠ゆ

2010-04-30

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 古今集を読む。

古今和歌集 (岩波文庫)

古今和歌集 (岩波文庫)

仮名序

 和歌(やまとうた)は、人の心を種として、万(よろづ)の言の葉とぞなれりける。世の中にある人、事・業しげきものならば、心に思ふ事を、見るもの聞くものにつけて、言ひだせるなり。花に鳴く鶯、水に住むかはづの声を聞けば、生きとし生けるもの、いづれか歌をよまざりける。力をも入れずして天地(あめつち)を動かし、目に見えぬ鬼神をもあはれを思はせ、男女のなかをもやはらげ、猛き武士の心をもなぐさむるは、歌なり。

佐伯梅友校注『古今和歌集』岩波文庫

仮名序

 この歌、天地の開けはじまりける時より、いで来にけり。(天の浮橋のしたにて、女神男神となりたまへることを言へる歌なり。)然あれども、世に伝はることは、久方の天にしては下照姫に始まり、(下照姫とは、あめわかみこの妻(め)なり。兄(せうと)の神のかたち、丘谷(をかたに)にうつりてかゞやくをよめるえびす歌なるべし。これらは、文字の数も定まらず、歌のやうにもあらぬことどもなり。)あらがねの地(つち)にしては、すかのをの命よりぞおこりける。ちはやぶる神世には、歌の文字も定まらず、すなほにして、言(こと)のこころわきがたかりけるらし。人の世となりて、すさのをの命よりぞ、三十文字あまり一文字はよみける。(すさのをの命は、天照(あまてる)大神のこのかみなり。女(め)と住みたまはむとて、出雲の国に宮造りたまふ時に、その処に八色の雲のたつを見て、よみたまへるなり。や雲立つ出雲八重垣妻ごめに八重垣作るその八重垣を。)

佐伯梅友校注『古今和歌集』岩波文庫

仮名序

 かくてぞ、花をめで、鳥をうらやみ、霞をあはれび、露をかなしぶ心・言葉おほく、様々になりにける。遠き所もいでたつ足もとより始まりて年月をわたり、高き山も麓の塵土(ちりひぢ)よりなりて天雲たなびくまで生(お)ひのぼれるごとくに、この歌も、かくのごとくなるべし。難波津の歌は帝の御初(おほむはじ)めなり。(おほさゞきの帝、難波津にて、皇子とききえける時、東宮をたがひに譲りて、位につきたははで三年(みとせ)になりにければ、王仁というひとのいぶかり思ひて、よみてたてまつりける歌なり。「この花」はむめの花をいふなるべし。)安積山の言葉は采女のたはぶれよりよみて、(葛城王(かづらきのおほきみ)を、陸奥(みちのおく)へつかはしたりけるに、国の司事おろかなりとて、設けなどしたりけれど、すさまじかりければ、采女なる女の、かはらけとりてよめるなり。これぞ、おほきみの心とけにける。)この二歌は、歌の父母のやうにてぞ、手習ふ人のはじめにもしける。

佐伯梅友校注『古今和歌集』岩波文庫