蜀犬 日に吠ゆ

2010-05-11

[][][][]陽貨第十七を読む(その6) 20:22 はてなブックマーク - 陽貨第十七を読む(その6) - 蜀犬 日に吠ゆ

六言六蔽

 陽貨第十七(435~460)

442 子曰。由也。女聞六言六蔽矣乎。対曰。未也。居。吾語女。好仁不好学。其蔽也愚。好知不好学。其蔽也蕩。好信不好学。其蔽也賊。好直不好学。其蔽也絞。好勇不好学。其蔽也乱。好剛不好学。其蔽也狂。

(訓)子曰く、由や、女(なんじ)は六言六蔽を聞けるか。対えて曰く、未だし。(子曰く、)居れ、吾、女に語(つ)げん。仁を好んで学を好まざれば、其の蔽や愚。知を好みて学を好まざれば、其の蔽や蕩。信を好みて学を好まざれば、其の蔽や賊。直を好みて学を好まざれば、其の蔽や絞。勇を好みて学を好まざれば、其の蔽や乱。剛を好みて学を好まざれば、其の蔽や狂なり。

(新)子曰く、由や、お前は六つの害を示す六つの言葉を聞いたことがあるかね。対えて曰く、まだです。曰く、そうか、そんなら話してやろう。仁の徳を行おうとしても学問をしてなければ、その害として馬鹿にされる。知を尚んでも学問をしてなければ、その害として自信過剰におちいる。信義を重んずるだけで学問をしてなければ、その害として傷つけあう。正直一途なだけで学問をしてなければ、その害として孤立に陥る。勇気に走って学問をしてなければ、その害として自暴自棄になる。強気一本で学問をしてなければ、その害として人間嫌いになる。

宮崎市定『現代語訳 論語』岩波現代文庫

 学問をすることで、より高い視野から物事を見よう、という話。解釈にはいろいろありそうなので、列挙してみます。

仁を好んでも学問を好まないと、その害として(情におぼれて)愚かになる。智を好んでも学問を好まないと、その害として(高遠に走って)とりとめがなくなる。信を好んでも学問を好まないと、その害として(盲信におちいって)人をそこなうことになる。まっ直ぐなのを好んでも学問を好まないと、その害としてきゅうくつになる。勇を好んでも学問を好まないと、その害として乱暴になる。剛強を好んでも学問を好まないと、その害として気違いざたになる。(仁智などの六徳はよいが、さらに学問で磨きをかけねばならない。)

金谷治『論語』岩波文庫

 なるほど。あいだに解説が加わる分、宮崎先生よりは分かりよいかも。

美徳は必ず学によって成就する。仁を好んでも学を好んでその理を明らかにしなければ、心が蔽(おお)われて仁の全体を見ることができないから、陥れられたり罔(くら)まされたりする。これを愚という。知を好んでも学を好んでその理を明らかにしなければ、心が蔽われて知の全体を見ることができないから、心を無用の処に用いて窮むべからざることをも窮めようとする。これを蕩という。信を好んでも学を好んでその理を明らかにしなければ、心が蔽われて信の全体を見ることができないから、小信を固守して利害を顧みず、人を害し己を害するに至る。これを賊という。直を好んでも学を好んでその理を明らかにしなければ、心が蔽われて直の全体を見ることができないから、あまりきびしすぎて人情に外れるようになる。これを絞という。勇を好んでも学を好んでその理を明らかにしなければ、心が蔽われて勇の全体を見ることができないから、徒に血気の勇を恃んで上を犯し人を凌ぐようなことをする。これを乱という。剛を好んでも学を好んでその理を明らかにしなければ、心が蔽われて剛の全体を見ることができないから、わが意に任せて軽挙妄動するようになる。これを狂という。

宇野哲人『論語新釈』講談社学術文庫

 さらに細かく。私の印象に近いですかね。

愛すること(仁)に熱中するだけで、どうあてはめるかを覚らないと、その愛は当たっていない愚劣となる。事を明らかにすること(知)に熱心となるだけで、そのしかたを覚らないと、議論倒れでとりとめもない(蕩)ことになる。まごころを尽くすこと(信)にすがるだけで、その程度を覚らないと、行きすぎてたがいに被害者(賊)となってしまう。まっすぐであること(直)を第一として、その調整を覚らないと、むやみに他者を非難する(絞)だけとなる。勇敢であること(勇)だけを誇って、そこに大義があることを覚っていないと、秩序を乱す(乱)だけとなる。決心の固さ(剛)を売りものにするだけで、その本質を覚っていないと、単に目的達成第一の独りよがり(狂)となる。

加地伸行『論語』講談社学術文庫

 加地先生の解釈の特徴は、「学」を、学んだ結果として覚ることにしている点。あとこうしてみると、「乱」などの解釈はいろいろあるんですね。

仁は美徳である。しかし盲目的に仁を好むばかりで学問を好まなければ、その弊害はただのお人よしになる。以下同じように、学問を伴わない盲目的な知識の愛好、その弊害はでたらめ。盲目的な信義の弊害は過度の深刻さ。盲目的な正直の弊害は、人を絞め上げるような窮屈さ。盲目的な勇気の弊害は、無秩序。盲目的な硬骨の弊害は、狂気。

吉川幸次郎『論語』下 朝日選書

 こちらは、「不好学」を盲目的とします。