蜀犬 日に吠ゆ

2010-05-14

[]フレッシュエアマニア 20:26 はてなブックマーク - フレッシュエアマニア - 蜀犬 日に吠ゆ

 「フレッシュエアマニア」をキーワード化したいのですが、「フレッシュエアマニア」全部では長すぎますし、どこで切っていいのか分かりません。英語だと fresh air craze で、ますます混乱。

私の'frash '体験

セント・アンドルーズの大学の寮にいた時、よく隣室の化学の学生から「'fresh air' に当たりに散歩に行かないか」と誘われたが、これも、部屋に閉じこもっていないで「新鮮な空気」を吸いに出ようと言われているのだととって、別に不都合は起きなかった。

 ところが、クリスマスの休暇中にブリティッシュ・カウンシル主催の旅行で南イングランド・ドーセットの民宿に泊まって、その家の一人暮らしの元気な未亡人とさんざんだべった果てに、ではおやすみなさいと寝室へ上がった時に驚きが始まった。家じゅう暖かくしてあるのに寝室だけはひんやりどころかひやーっとしている。暖房がないばかりではない、ごていねいに窓がすかしてある。びっくりしてえていると、夫人が上がってきて、'Are you all right? Aren't you cold? I know it's a bit of our ridiculous fresh air craze. But we'd like to keep fresh air in the bed room.' と言い、でももし寒かったらこれも使いなさいとキルティングを出してくれた。それでも一晩中寒かった。次の日からは窓を閉めて寝ることにした。夫人は'craze' と言っていたが、そうにちがいない(「クレイズ」とは和製英語では「マニア」というのに当たる)。新鮮な空気も結構だが、寝室を冷蔵庫にすることはないのにと思った。その後、今度は三月末から四月初めにかけて、とは復活祭の休暇で、これもブリティッシュ・カウンシルの旅行で湖水地方へ行った時、泊まったグラスミアのユース・ホステルがまた暖房完備、廊下にさえ暖房が行き届いているのに、寝室にはそれがなかった。はは、ここにもクレイズおじさんかおばさんがいるんだなと思った。

 しかしある日、今まで注意して見たこともなかった新聞の天気予報の欄にふと目がとまって「はてね」と首をかしげた。北西の風とか、曇り時々薄日がさす(cloudy with bright intervals)とか書いてある最後のところに、'air fresh 'とある。これは'air will be fresh 'ということだろうということまでは分かったが、まさか「空気は新鮮でしょう」ではない。そこで例の化学の学生との散歩の時に聞いてみたら、それは今のように、マフラーを締めコートの襟を立てたくなるような風が吹いていることだと教えてくれた。そして、ああいう暖房の中で暮らしていると、日にいっぺんぐらいこういう冷たい風に当たると気分が引き締まるじゃないか、健康にもいいはずだと付け加えた。そこではじめてドーセットのおばさんやグラスミアのユース・ホステルの管理人の craze の実体がつかめたと思った。天気予報の'air fresh 'とは「風は冷たいでしょう」ということだったのだ。

柳沼重剛『語学者の散歩道』岩波現代文庫
語学者の散歩道 (岩波現代文庫)

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