蜀犬 日に吠ゆ

2010-05-23

[][][]古今和歌集を読む 仮名序(その6) 15:35 はてなブックマーク - 古今和歌集を読む 仮名序(その6) - 蜀犬 日に吠ゆ

 古今集仮名序

仮名序

 かゝるに、今、天皇(すべらぎ)の天下知ろしめすこと、四時こゝのかへりになんなりぬる。あまねき御慈愛の波、八洲のほかまで流れ、ひろき御恵みのかげ、筑波山の麓よりもしげくおはしまして、万の政務をきこしめすいとま、もろもろの事を捨てたまはぬあまりに、「いにしへの事をも忘れじ、古りにし事をも興したまふ」とて、「今もみそなはし、後の世にも伝はれ」とて、延喜五年四月十八日に、大内記紀友則、御書の所の預り紀貫之、前の甲斐の少目(さうくわん)凡河内躬恒、右衛門の府壬生忠岑らに仰せられて、万葉集に入らぬ古き歌、自らのをもたてまつらしめたまひてなん。それが中に、梅をかざすうより始めて、ほとゝぎすを聞き、紅葉を折り、雪を見るにいたるまで、又、鶴亀につけて君を思ひ人をも祝ひ、秋萩夏草を見て妻を恋ひ、逢坂山にいたりて手向けを折り、あるは、春夏秋冬にも入らぬ種々の歌をなん、えらばせたまひける。すべて千歌(ちうた)二十巻(はたまき)、名づけて『古今和歌集』といふ。かく、この度集めえらばれて、山下水の絶えず、浜の真砂の数多く積りぬれば、今は、飛鳥川の瀬になる恨みもきこえずう、さゞれ石の巌となる喜びのみぞあるべき。

佐伯梅友校注『古今和歌集』岩波文庫