蜀犬 日に吠ゆ

2010-05-29

[][][]古今和歌集を読む 仮名序(その7) 17:15 はてなブックマーク - 古今和歌集を読む 仮名序(その7) - 蜀犬 日に吠ゆ

 古今集仮名序

仮名序

 それ、まくらことは、春の花にほひすくなくして、空しき名のみ秋の夜の長きをかこてれば、かつは人の耳に恐り、かつは歌の心に恥ぢ思へど、たなびく雲のたちゐ、鳴く鹿の起きふしは、貫之らがこの世に同じくむまれて、この事の時にあへるをなむ、喜びぬる。人麿なくなりにたれど、歌のこととゞまれるかな。たとひ、時移り事去り、楽しび哀しびゆきかふとも、この歌の文字あるをや。青柳の糸絶えず、松の葉のちり失せずして、まさきのかづら長く伝はり、鳥のあと久しくとゞまれらば、歌のさまを知り、ことの心を得たらん人は、大空の月を見るがごとくに、いにしへを仰ぎて今を恋ひざらめかも。

佐伯梅友校注『古今和歌集』岩波文庫

[][][]葛覃(葛延びて)『周南』を読む(その2) 21:35 はてなブックマーク - 葛覃(葛延びて)『周南』を読む(その2) - 蜀犬 日に吠ゆ

 周南、第二歌。

葛覃(葛延びて)

1

葛之覃兮

施于中谷 kok

維葉萋萋 tayei

黄鳥于飛 piuei

集于灌木 mok

其鳴喈喈 kei


葛の覃(の)びて

中谷に施(うつ)る

維(これ)葉萋々(せいせい)たり

黄鳥于(ここ)に飛び

灌木に集り

その鳴くこと喈々たり


葛延びて

谷に及べり

青き葉内に

鶯飛び

木むらに集ひ

鳴き交はすなり


2

葛之覃兮

施于中谷 kok

維葉莫莫 mak

是刈是濩 huak

為絺為綌 khyak

服是無斁 jyak


葛の覃びて

中谷に施る

維葉莫々たり

ここに刈り ここに濩(に)て

絺(ち)と為し綌(げき)と為し

これを服して斁(いと)ふなし


葛延びて

谷に及べり

茂る葉蔭

刈りて蒸しこめ

細き布太き布とり

あかずまとへり


3

言告師氏

言告言歸 kiuei

薄汙我私

薄澣我衣 iei

害澣害否 piue

歸寧父母 me


ここに師氏に告げ

ここに告げここに歸る

薄(いささ)か我が私を汙(あら)ひ

薄か我が衣を澣(あら)ふ

害(いづ)れをか澣ひ害れをか否(しか)せざらん

父母に歸寧せん


師の君に告げ

里歸りせむ

はだ着も洗ひたり

衣もそそぎたり

すべて洗い清め

たらちねのもとにゆかむ

白川静『詩経国風』東洋文庫

 第一歌では嫁を取り、第二歌では、その嫁が里帰り。

 家庭内の役割分担で言えば、「翁は山で芝を刈り、媼は川で衣すすぎ」というところでしょうが、歸寧(里帰り)のための服を用意し、清めるということを表すのでしょう。その服を来て帰るのか、それとも持参して里親に渡すのかは謎。

詩経国風 (東洋文庫)

詩経国風 (東洋文庫)


[][][][]微子第十八を読む(その5) 20:58 はてなブックマーク - 微子第十八を読む(その5) - 蜀犬 日に吠ゆ

道の行われざるは、已にこれを知れり

 微子第十八(461~471)

467 子路従而後。遇丈人以杖荷蓧。子路問曰。子見夫子乎。丈人曰。四体不動。五穀不分。孰為夫子。植其杖而芸。子路拱而立。止子路宿。殺雞為黍而食之。見其二子焉。明日子路行以告。子曰。隠者也。使子路反見之。至則行矣。子(路)曰。不仕無義。長幼之節。不可廃也。君臣之義。如之何其廃之。欲潔其身而乱大倫。君子之仕也。行義也。道之不行。已知之矣。

(訓)子路、従って後る。丈人の杖を以て蓧を荷うに遇う。子路問うて曰く、子は夫子を見たるか。丈人曰く、四体ありて勤めず、五穀分かたず、孰をか夫子と為すや、と。其の杖を植てて芸(くさぎ)る。子路拱して立つ。子路を止めて宿せしめ、雞(にわとり)を殺し黍(きびめし)を為(つく)りて之に食わしめ、其の二子を見(まみえ)しむ。明日子路行り、以て告ぐ。子曰く、隠者なり、と。子路をして反りてこれを見しむ。至れば則ち行れり。子曰く、仕えざるは義なし。長幼の節、廃すべからざるならば、君臣の義は、これを如何ぞ其れこれを廃せん。其の身を潔くせんと欲して大倫を乱る。君子の仕うるや、其の義を行わんとするなり。道の行われざるは、已にこれを知れり。

(新)子路が孔子に従行して、後にとりのこされた。追いかけて行く途で老人が杖に丈の蓧(かご)を下げて荷(にな)っているのに出会ったので尋ねた。貴方は私の先生に遇いませんでしたか。老人曰く、身体の労働をしたことがなく、五穀の見さかいもない者が、何で先生なものか、と言って杖を地面に立てて、草をむしり出した。子路は両手を組んで敬意を表しながら、老人と立ち話を始めた。老人は子路をひきとめ、家へつれ帰って泊らせ、雞を殺し、黍の飯をつくって御馳走をし、二人の子供を紹介した。明日子路は立ち去って孔子に追いついて、このことを話した。子曰く、隠者だな、(それなら言うことがある)と。子路に命(いい)つけて、もう一度たち戻って面会してこいと言った。子路がその家へ行って見ると、もう行方知れずであった。孔子が子路に言わせようとしたのは次の通りであった。曰く、宮仕えしないという主張には何も根拠がない。尊長と卑幼との間の序列は無視することができぬ。(現に子路は貴方を老人の故に尊敬し、貴方はまた二子を年長の子路に引合わせて敬意を表せしめたではないか。)それと同じように、君主と臣下との関係は、無視しようとしても無視できないものだ。貴方は一身を清くしようと思うあまり、無視することのできぬ大事な人間関係を強いて無視しようとなされる。我々の仲間が君主を求めて宮仕えしようとするのは、人間たる者の義務を行おうとするのである。ただその理想がすぐ実現できないものであることぐらいは、万々承知の上だ。

宮崎市定『現代語訳 論語』岩波現代文庫

 子路はつづけざまに孔子を批判する隠者との出会いを果たします。子路のなかの夫子に批判的な部分が、呼応するのかも知れません。