蜀犬 日に吠ゆ

2010-06-04

[][][]武田泰淳『十三妹』中公文庫 19:47 はてなブックマーク - 武田泰淳『十三妹』中公文庫 - 蜀犬 日に吠ゆ

 いっぺん挫折したんですよね。ようやく読了。

十三妹(シイサンメイ) (中公文庫)

十三妹(シイサンメイ) (中公文庫)

 以前に挫折したのは、この作品が「夜の言葉」で書かれていないファンタジーだからです。昔は、そういう観念がなかったので「難しい話だなあ」と投げだしてしまったのですが、年をとると捌けてきて「そういうものだ」と読み進めることができました。ただ問題は、そういう捌けた態度で読んでいるうちは、面白くはない。

 たとえば、

首の話

 始皇帝は天下を統一しようとする権威ならびなき大皇帝であるから、面会するのがまずむずかしい。ヒトラーやスターリンだって、いつ刺客におそわれるか、たえず警戒おこたりなかったであろうから、

武田泰淳『十三妹』中公文庫

 あたりはまだいいんです。それでも、「現代で言うなら…」とかそういうことわり書きのほしいところではあります。地の文は「状況説明」と「作者による注釈」の両方を扱うわけですが、同じ文体で混在されると、困ります。

首の話

 老主人が人情ぶかい仁者(今の言い方をすればヒューマニスト)だとわかると、

武田泰淳『十三妹』中公文庫

 とかね。こうやって書いてもらいたいんです。

ややこしい話

ハンカチに竜のししゅうをなさったら、ミミズみたいになっちまったのよ」

武田泰淳『十三妹』中公文庫

 などというのも「手巾(ハンカチ)」くらいのワンクッションをおいてほしいんです。あと、農夫を「百姓」とか、「お祝いのパーティ」「ノイローゼ」「スローガン」「漢人インテリ」など、現代日本語がポンポンとびだすのにいちいちひっかかってしまい、物語りに入り込めないのが困った者です。


 あらすじと感想

  1. 首の話
    • 十三妹の嫁ぎ先、安公子の邸宅に泥棒が入る。十三妹は一人を殺して二人を捕らえるが、その混乱のさなか白玉堂も忍び込んでおり、十三妹に伝言を残す。
      • 忍者忍者とうるさいなあ、と思いました。「刺客」「剣客」でいいではないか、と。しかし物語の終わりまでこういう輩は「忍者」なのでした。
  2. ややこしい話
    • 公子の父、安老爺がかつて聞いた生首の登場する殺人事件の顛末を語る。
      • 「三侠五義」にでてくるエピソードでしょうか? 受験生がでてきますが「儒林外史」っぽくはない。
          • 「儒林外史」も挫折したままです。
  3. 旅の話
    • 安老爺は安昌九江の治水工事に派遣されるが、任地で捕縛される。公子は救出のため華南に旅立つが金儒人(白玉堂の偽名)にからまれる。
      • これは「三教五義」だと、作者自身が言っている。
  4. 放浪の話
    • 安公子は美人局にハメられて路銀を失うが、義侠心の厚い船頭が介入してやくざ者から銀を取り戻す。が、親分衆にそれが知れると、船は夜襲されて船頭は殺され、安公子も川に投げこまれる。
  5. ねずみの話
    • 包公は華南の武侠である五匹の鼠を招安しようと杭州で御前試合を開く。
      • 五鼠とは「鑽天鼠」「翻江鼠」「徹地鼠」「穿山鼠」「錦毛鼠(これが白玉堂)」で、白玉堂は招安に応じるつもりはない。
    • 白玉堂と十三妹は包公の宿舎に潜入する。白玉堂は「南侠御猫」展昭と戦い、十三妹は包公と語る。
      • これは「三教五義」では、展昭と丁月華の戦いである、と解説で田中芳樹が解説。
  6. 受験前の話
    • 安公子は流れ者となり、文海楼に拾われてはじめ科挙の問題集作製、やがて文書偽造に手を染める。やがて文海楼の悪事が露見すると安公子は南京に逃れ、昔なじみの柳洪の家に逗留する。が、柳洪の娘金蝉と懇ろになると、その財産をめあてに結婚を望んでいた陳某は下女殺しの罪を安公子になすりつけて牢に入れる。
      • 「忍者」同士のたたかいより、こういうほうががぜん面白いなあ。筋としてはよくある話のようですが、安公子が美青年だからって積極的に面倒をみる金蝉が面白い。
    • 包公の名判決(いよっ!)で安公子は無実であるとされ、さらに安老爺が放免されると知らされた公子は北京に戻り、会試に臨む。
  7. 試験場の話
    • 安公子が会試を受ける。
      • 北京の人は楽でいいなあ。受験のために上京するのだって、田舎者には一苦労だったのに。
    • 十三妹が忍術で安公子を合格させる。
      • ひどい。それはないよ。「そんな妖術や秘法があってたまるものかと、反対される識者も多いことであろうが、その反対に筆者は反対である。」
      • という、忍術どうこうという話ではなくて、安公子が実力で進士になったのでなければ、物語上この人の立つ瀬がないんじゃないか? 十三妹が惚れたのは、ただのアッパラパーだったのか? ということになってしまいます。「世事には疎いが優等生」という、いままで組み立ててきたキャラクターを捨て去る行為だと思います。たとえば安公子は十分合格できるんだけど、それを国子監での同級生とかが嫉んで試験の妨害を企んで、十三妹が阻止する、とかそういう話でも十分十三妹の見せ場は作れたのではないでしょうか。点数をいじる、って、そんな。
  8. その語の話
    • 安公子は会試第三席「探花」で合格。
      • 探花は美男子、ってのは初めて知りました。「状元」「榜眼」「探花」はそれぞれ成績以外の意味があったんですね。
      • しかし、最終試験は「殿試」でしょう? 会試の成績第一席は「会元」で、本当はあったはずの皇帝の面接シーンがないのはちょっと心残り。十三妹は御所にまで入れる者だったのでしょうか。
    • 第二席馬先生が安家の祝勝会に乱入。「忍者おぼろ」「忍者おとぼけ」「忍者おろか」の術を使う。
      • なんだそれ。まあそれに類する忍術があったとして、日本の忍術と中国の鶏鳴狗盗を同列にされると、また引いてしまいます。
    • 馬先生は西南で包公に敵対する襄王に仕える「忍者おろか」で、洞庭湖の「八卦銅鋼陣」は万夫不当だと挑発。梁上で聞いていた白玉堂は発憤。
      • おお! 面白くなってきた!
    • 白玉堂は洞庭湖を目指し、十三妹は安家から姿を消す(未完)。
      • なんだそれー!!
      • 最後に「伝奇」の条件を満たしてきたか……(未完)こそが伝奇の条件、としたのはだれだ! 戦犯でてこい!