蜀犬 日に吠ゆ

2010-09-03

[][]首猛夫はくびったけ~~埴谷雄高『死霊』1 講談社文芸文庫 19:30 はてなブックマーク - 首猛夫はくびったけ~~埴谷雄高『死霊』1 講談社文芸文庫 - 蜀犬 日に吠ゆ

 暑いので背筋も凍るような話でしのごうとする。

 悪意と深淵の間に彷徨いつつ

 宇宙のごとく

 私語する死霊達

埴谷雄高『死霊』1 講談社文芸文庫
死霊 一

 最近の記録には嘗て存在しなかったといわれるほどの激しい、不気味な暑気がつづき、そのため、自然的にも社会的にも不吉な事件が相次いで起った或る夏も終りの或る曇った、蒸暑い日の午前、××瘋癲病院の古風な正門を、一人の痩せぎすな長身の青年が通り過ぎた。

埴谷雄高『死霊』1 講談社文芸文庫

 冒頭からいきなり暑苦しかったのでした。


死霊 二

――わしは一度与志君ととっくり話し合いたいが、この頃の青年はまるきり違ってしまった。目の色が変わったような騒ぎじゃ。ヨーロッパの歴史をまるで自国の歴史ででもあるかのように話し合う。エムペドクレスとアリストテレス、プロチヌスとテルトリアヌス、パスカルとデカルトなどとまるで自分の祖先ででもあるかのような口振りじゃ。そのくせ、そのどちらが先に生れたかもろくろく知っておらん。よくよく聞き質せば、何も知っておらん。まことに皮相浅薄な知識じゃ。知ってることはみな切れ切れのちっぽけな断片で、ちょっとばかり悧巧振ったところで、中身のがらんどうな、薄っぺらな、へろへろの寄木細工を組立てているに過ぎんのじゃ。力強い叛逆だの、抵抗だのと口幅ったいことを一人前に述べたてるが、一分の隙もなく中身のぎっししりつまった大きな重圧など少しも感じとりはせん。いったい歴史や思想の重みを感ぜずに、抵抗などという大それた業が、ちょっとばかりも行われよう筈もないわい。おお、神は伝統のなかにまします。そうじゃ。神はおろかどっしりと厚い伝統の色合いや匂いすら嗅ぎ分けられぬ不器用者共が、神は死んだの、まったく新らしい神が生まれただのと喚きたてているさまは、笑止の限りじゃ。おお、それは笑止の限りじゃよ。

埴谷雄高『死霊』1 講談社文芸文庫

 なんでしょう、インターネットによる知識のつまみ食い批判?

死霊(1) (講談社文芸文庫)

死霊(1) (講談社文芸文庫)