蜀犬 日に吠ゆ

2010-10-09

[][][]孫子を読む 勢篇(その2) 15:39 はてなブックマーク - 孫子を読む 勢篇(その2) - 蜀犬 日に吠ゆ

凡そ戦いは、正を以て合い、奇を以て勝つ

勢篇

凡戰者、以正合、以奇勝、故善出奇者、無窮如天地、不竭如江河、終而復始、日月是也、死而復生、四時是也、聲不過五、五聲之變、不可勝聽也、色不過五、五色之變、不可勝觀也、味不過五、五味之變、不可勝嘗也、戰勢、不過奇正、奇正之變、不可勝窮也、奇正相生、如循環之無端、孰能窮之、

金谷治訳注『孫子』 岩波文庫

 凡そ戦いは、正を以て合い、奇を以て勝つ。故に善く奇を出だす者は、窮まり無きこと天地の如く、竭(つ)ざること江河の如し。終わりてまた始まるは、四時是れなり。死して更〃生ずるは、日月是れなり。声は五に過ぎざるも、五声の変は勝(あ)げて聴くべからざるなり。色は五に過ぎざるも、五色の変は勝げて観るべからざるなり。味は五に過ぎざるも、五味の変は勝げって嘗むべからざるなり。戦勢は奇正に過ぎざるも、奇正の変は勝げて窮むべからざるなり。奇正の相い生ずることは、循環の端なきが如し。孰(たれ)か能くこれを窮めんや。


 およそ戦闘というものは、定石どおりの正法で――不敗の地に立って――敵と会戦し、状況の変化に適応した奇法でうち勝つのである。だから、うまく奇法を使う軍隊では、(その変化は)天地の(動き)のように窮まりなく、揚子江や黄河の水のように尽きることがない。終わってはくりかえして始まるのは四季がそれであり、暗くなってまたくりかえして明かるくなるのは日月がそれである(が、ちょうどそれと同じである)。音は(その音階は宮・商・角・徴(ち)・羽の)五つに過ぎないが、その五音階のまじりあった変化は(無数で)とても聞きつくすことはできない。色は(その原色は青・黄・赤・白・黒の)五つに過ぎないが、その五色のまじりあった変化は(無数で)とても見つくすことはできない。味は(酸・辛(しん、からみ)・醎(かん、しおから)・甘・苦(にがみ)の)五つに過ぎないが、その五味のまじりあった変化は(無数で)とても味わいつくすことはできない。(それと同様に、)戦闘の勢いは奇法と正法と(の二つの運用)に過ぎないが、奇法と正法とのまじりあった変化は(無数で)とても窮めつくせるものではない。奇法と正法とが互いに生まれ出てくる――奇中に正あり、正中に奇あり、奇から正が生まれ正から奇が生まれるという――ありさまは、丸い輪をぐるぐる廻って終点のないようなものである。誰にそれが窮められようか。

金谷治訳注『孫子』 岩波文庫