蜀犬 日に吠ゆ

2011-02-28

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 どうでもいいことを。

ヴォネガット、大いに語る (ハヤカワ文庫SF)

ヴォネガット、大いに語る (ハヤカワ文庫SF)

 原題は、『WAMPETERS, FOMA AND GRANFALLOONS』。これはすべてヴォネガットの造語です。彼のSF小説『猫のゆりかご』に出てくる架空の宗教の用語で、それぞれの意味は、はしがきに解説されています。が、小説を読まないと意味はつかめないでしょうね。こうした独特な世界観自体の説明が、『猫のゆりかご』の内容なのですから。

はしがき

 この『ヴォネガット大いに語る』の原題はWampeters, Foma & Granfalloons で、これはわたしの小説『猫のゆりかご』に出てくる三つの語から成り立っています。最初のwampeter というのは、もともと無縁だった多くの人々がそれを中心としていっしょに回転しはじめるもの。アーサー王伝説の聖杯がそれに当たるでしょう。つぎのfoma は、純朴な人々を慰めるために語る無害なうそのかずかず。たとえば、「繁栄はすぐそこまで近づいている」(大不況時代にフーヴァー大統領が言った)のたぐいです。おしまいのgranfalloon は、人々が結成する、自尊心に満ちた、意味のない協会のたぐいです。おその三つを組み合わせれば、わたしが書いた批評とエッセーの一部、それと、いくつかの講演を集めたこの本にとって、なによりの傘になるでしょう。

ヴォネガット『ヴォネガット大いに語る』ハヤカワ文庫

 フォーマについては、わたしもキーワード化しました。あと、カンカンとかね。

猫のゆりかご (ハヤカワ文庫 SF 353)

猫のゆりかご (ハヤカワ文庫 SF 353)

 しかし、ヴォネガットという人は、小説も何やらわけがわかりませんし、こういう随筆よりの作品も「言葉の意味はわかるけれど、全体としては何を言っているのかわからない」ですね。それは、ヴォネガットがあまりに大きなテーマ、人類がどこからきてどこへ行くのかと言うことを説明しようとしているからだと思うのですが、ユーモア表現に包まれた残酷な描写たちが、私の理解したいという意欲を削いでいるのかも知れませんね。できることなら目をそむけたい非人道や不合理を、ヴォネガットは隠しませんから。


若者は何故ヘッセを読むのか

 世界じゅうどこの国の若者にも常に受ける物語の骨だけ取り出してみると、こんなものになる。ある男が大いに旅をする。彼はしばしば孤独である。金銭は大した問題ではない。求めているのは精神的な安らぎであり、結婚や退屈な仕事は避けている。彼は両親や、出会う人々の大部分よりも知性がすぐれている。女性は彼に好意を寄せる。貧しい人々も彼に好意を寄せる。賢い老人たちもまた然り。彼はセックスを試し、よいものだとは思うが、夢中にはなれない。彼は精神的な安らぎを見いだすことが本当に可能だいう、多くの不思議に明るい希望のきざしにぶつかる。世界は美しい。至るところに魔法が働いている。

ヴォネガット『ヴォネガット大いに語る』ハヤカワ文庫

 寅さんの『男はつらいよ』って、これですよね。行為はなくてマドンナへの恋慕と失恋に終わるけど、嫌われることはないし。しかし、とするなら、日本のいい歳こいた寅さんファンって、マッカーサーの言うとおりなのか知らん。

 そしてヴォネガットは、こういう物語の代表としてヘッセをあげるのですが、ヘッセの物語だって、仄めかされたり、拒否の憂き目にあったりしてるんじゃないでしょうか。ま、その部分はあまり重要でないということか。


若者は何故ヘッセを読むのか

 こうして見ると、アメリカの若者のヘッセ愛好を単純に説明することも可能だろう。つまり、ヘッセは明快で、直接的で、翻訳もよく、そのうえ、最近の若者が世界の至るところでものすごく苦労して探し求めている希望とロマンスとを与えてくれる。これはまったく明るい説明である。

 ところが、もっと暗くて、もっと深い説明を見つけることもできる。

(略)

名のある大学に入った孤独な新入生が、はじめて大きな本屋を訪れたさまを思い浮かべることができる。彼は生まれてはじめて自分で買った文学書の入った小さな紙袋を持って出てくる。よし、見つけたぞ! 『荒野のおおかみ(ステッペンウルフ)』!

 彼は服装もよく小金も持っているが、憂鬱症で、女性に対して妙に用心深い。故郷や母親から遠く離れた陰気な部屋で『荒野のおおかみ』を読むと、それは故郷や母親から遠く離れた陰気な部屋に住む中年男の物語であることに気づく。この男は服装もよく小金も持っているが、憂鬱症で、女性に対して妙に用心深い。

(略)

 そこでわたしは、アメリカには甘く悲しい郷愁に駆られた人々が満ちており、『荒野のおおかみ』はそんな郷愁について書かれた最も深淵な本ではあるまいか、と言った。

(略)

 ところで、自分で荒野のおおかみと名乗るような男は、小説では最も狂暴性に乏しい人間の仲間だ。それは小心で間抜けた気取り屋だ。子ヒツジみたいな臆病者だ。

ヴォネガット『ヴォネガット大いに語る』ハヤカワ文庫

 そうして、小心を隠しておおかみを気取りたい若者にあふれていたのが一九六〇年代のアメリカだったのですね。ま、ヴェトナム戦争でいろんな価値観が破壊された時期だったわけで、宜なるかな。