蜀犬 日に吠ゆ

2011-03-02

[][]教育者トルストイ~~藤沼貴『トルストイ・クロニクル』ユーラシア・ブックレット 東洋書店 20:40 はてなブックマーク - 教育者トルストイ~~藤沼貴『トルストイ・クロニクル』ユーラシア・ブックレット 東洋書店 - 蜀犬 日に吠ゆ

 トルストイの生涯を綴った年表。

トルストイ・クロニクル―生涯と活動 (ユーラシア・ブックレット)

トルストイ・クロニクル―生涯と活動 (ユーラシア・ブックレット)

 もちろん文学者として著名なのですが、一時期学校を経営したりもしていたんですね。

 学校を開いたトルストイ校長の教育理念の話。

第一章 前期

5 学校を開く

 子供たちは目をかがやかせて勉強し、学校が大好きになった。疑いの目で見ていた親たちも学校の良さを認め、トスルトイ自身も31年の人生で初めて確かな成果を感じとった。生徒数もどんどん増えたので、自分の屋敷の学校はヤースナヤ・ポリャーナの住民だけに限定し、ほかの村には分校を設けた(その数はまもなく20にもなった)。

 人間の脳には、人類が何万年もの間に通過してきた知的遺産の蓄積が潜在している、とトルストイは考えていた。いささか神秘的な考えに思えるが、それは本当だった。もし知的能力が遺伝で伝えられるのなら、数世代にわたって教育を受けているトルストイたちの階層の人間に比べ、何千年もの間文字も習ったことのない階層の人間は、知的潜在力の点ではるかに劣っているはずだ。しかし、教えてみると農民の子どもは貴族の子どもに比べてまったく見劣りしないばかりか、むしろすぐれたいた。表に出る知的成果は教育によって決まるが、知的潜在能力は人類全体に平等に偏在しているのだ。トルストイは自分の信念が事実で確証されて、教育の仕事に一層自信を深めた。

藤沼貴『トルストイ・クロニクル』東洋書店

 しかしまさに、「表に出る知的成果は教育によって決まる」ことこそが問題ですよね。義務教育以降の時代には。

 じゃあ、その知的蓄積はどうやって各個人に潜在しているのか、ということですが、私は、これを別に神秘的であるとは思いません。つまり、テストの点をとったりする能力というのは、人類にとってはささいなことでしかなく、現生人類が他種と分岐する四万年前から、「文明」とやらが登場する5000年前までの、全文明時代のほうが人類の知的能力にとって大事な期間であったということではないでしょうか。根拠のない憶測ですが。

第一章 前期

5 学校を開く

 トルストイ学校の第一の基本原理

1 人間はだれでもすばらしい素質を生まれもっており、知的な環境にいない者でも、その脳には過去の知的蓄積が潜在している。正しい方法を使えばその潜在能力は必ずかがやき出てくる。そして、良い人間になるために何かを学びたいという思いは、飢えた動物が食物を求めるのと同じように、基本的で自然な人間の欲求である。

2 教育は自由でなければならない。これは第一の原理から必然的に生じてくる。人間は本来すばらしいものを内に秘めており、それらを生かしたいと望んでいる。教育はそのすばらしいものが胎内から出産されるのを手伝うことだ。産み出すのは生徒自身なのだから、教育の主体は生徒であり、教師は助産婦にすぎない。子供は半人前の人間で、大人が何かを詰めこんでやって、一人前になるという考えは間違っている。

藤沼貴『トルストイ・クロニクル』東洋書店

 ゆとり教育っぽい。もちろん教育の理念をつきつめればこのようになることに異論はないのですが。日本語で「教」「育」の文字があてられているところからも、教え育てる側の視点で教育を語りがちになってしまうという現実も、一方ではあります。


 あと、カザン大学に入り日記をつけ始めたトルストイの、有名な第一ページ。きっちり通して読んだのは初めてかも。

第一章 前期

2 大学入学・退学

「部分、つまり、人間の社会とではなく、全体、つまり、すべてのものの根源と一致するように、お前の理性を形成せよ。そうすれば、お前の理性はその全体と融合するであろう。そして、そうすれば、部分である人間の社会はお前に影響力を持たなくなるであろう。そして、理性が自分に与えてくれたその規範を以て大胆に社会に入っていくがよい」。

藤沼貴『トルストイ・クロニクル』東洋書店

 みんなこういうのを巻頭言に置くの好きですよねえ。私もブログの頭に何か書いた方がいいのかしらん。