蜀犬 日に吠ゆ

2011-04-02

ポジティブ先生

[][][][][]春のうた を読む(その8) 16:05 はてなブックマーク - 春のうた を読む(その8) - 蜀犬 日に吠ゆ

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 幾山河(いくやまかは)越えさり行かば寂しさのはてなむ国ぞ今日も旅ゆく

             若山牧水(わかやまぼくすい)

 第一歌集『海の声』(明四一)所収。名歌として名高いが、これを作った時作者は二十二歳の恋知りそめた学生だった。宮崎へ帰省の途中、中国地方に遊んだ時の作。彼は当時、上田敏訳ブッセの小曲「山のあなたの空遠く「幸」すむと人のいふ」の詩を愛誦していたので、その気分もここに反映しているようだが、「幾山河」と歌い出した時、一首はたちまち醇乎(じゅんこ)たる牧水自身の愁いの調べとなった。

大岡信『折々のうた』岩波新書

 でました、日本文学界の巨☆。若山牧水。己の遺体をエタノール漬けで保存した人。しかし今回は酒の歌ではないのでした。残念。

 ブッセとの対比は面白いですね。ブッセ「山のあなた」の場合は山に出かけて次の行ではもうたちまち帰ってきちゃうのですが、牧水は山の中を旅して歩くことそのものに「寂しさのはてなむ」ことを願っている。そこに二人の詩人の違いが見て取れます。

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 しんしんと肺碧きまで海の旅

       篠原鳳作(しのはらほうさく)

 

 昭和十一年三十歳で急逝した新興俳句運動の俊才。鹿児島に生まれ、沖縄や鹿児島の中学でおしえるかたわら、いくつかの俳誌に関係したが、晩年は新興俳句運動の、とりわけ無季俳句の有力な推進者だった。右の句、無季俳句の傑作として知られる。「しんしんと」の泌み入る感覚と「肺碧きまで」の鮮やかな色感のみごとな融合によって、忘れがたい印象を生む。まこと南国人の句というべきであろう。

大岡信『折々のうた』岩波新書

 大岡先生って、「忘れがたい」好きですね。まあ記憶力がよろしくていらっしゃるのでしょうけれども。

 まあ無季ということですが、「しんしんと」なれば寒い頃でしょうし、「肺碧き」となれば銀世界というわけではないでしょうね。かなりに幻想的な主観的感覚の句ですけれども。こう言うのにはもう「切れ」とかそういうのは関係ないので、苦手。

折々のうた (岩波新書 黄版 113)

折々のうた (岩波新書 黄版 113)