蜀犬 日に吠ゆ

2011-04-15

[][][][][]春のうた を読む(その21) 19:30 はてなブックマーク - 春のうた を読む(その21) - 蜀犬 日に吠ゆ

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 老いたるは皆かしこかりこの国に身を殺す者すべて若人(わかうど)

             与謝野寛(よさのひろし)(鉄幹)

 詩集『檞之葉(かしのは)』(明四三)所収。明治四十三年四月十五日、山口県新湊沖で潜行訓練中に遭難した六号潜航艇員の変死を悲しむ歌六首の一つ。艇長佐久間勉大尉は海底で死ぬまで報告を書きつづけ、その沈着と勇気をながく讃えられた。寛は殉難を哭(こく)し、戦争を否定し、若人を死地に追いやって生きのびる「老いたる」者らの「かしこさ」を告発する。彼のこの種の歌や詩には注目すべき作があり、再評価すべきであろう。

大岡信『折々のうた』岩波新書

 今の段階でも、評価が低いんだ。ものすごく注目されているようにも見えますが、歌壇としては不足なのか知らん。あと、「晶子の旦那」で評価にバイアスがかかるのは、それは仕方ない事だと思います。

 世代間の確執という問題は本当はみせかけであり、経済格差が根底にあるというふうに現代では捉えられがちですよね。しかし個々人で見れば、若くして死んだ人は老いる事ができないのですから年をとった人がうまくたちまわったというふうにも見える事例はあるのでしょうね。

 でも、区切りの部分を「この国に身を殺すもの」というところにとれば、「国が死を命じるのはいつも若人たちにたいしてだ」と解釈もできます。軍人であるという特殊性をおいても、これはほんとうにもうどうしようもないですよね。駄目な事ではあるんですけど現実の問題に対処する上では妥当な状態であると、言わざるを得ません。


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 右足の軍靴(ぐんくわ)のなかに骨しろし蟻(あり)二三匹(にさんびき)はひまつはりつ

                 橋本徳寿(はしもととくじゅ)

 『ララン草房』(昭三〇)に収める戦中詠。作者は造船技師だったので、技術者軍属となり南方戦線におもむいた。米潜水艦の魚雷で輸送船が沈没し、激浪中に十四時間漂ったのち救助された経験を持つ。敗戦後俘虜生活を孤島で送り、帰国した。歌集題名はララン草で葺いた掘立小屋の俘虜生活にちなむ。右は戦闘の激烈だった戦場あとに立って見た光景の一つ。ころがっている靴の中に見いだしたものをそのままうたう。説明をつけ加える必要はなかろう。

大岡信『折々のうた』岩波新書

 こういう情念を歌うときは俳句よりも短歌ですね。説明はおそろしいのですが、ぐんくわはいったいどちらの所属なのか。無残な死を遂げた生命に、所属などもはや問題ではない。蟻もきっと同じように思っているでしょうね。

折々のうた (岩波新書 黄版 113)

折々のうた (岩波新書 黄版 113)