蜀犬 日に吠ゆ

2011-04-16

[][][][]子路の秘密~~関山和夫『落語名人伝』白水Uブックス 20:45 はてなブックマーク - 子路の秘密~~関山和夫『落語名人伝』白水Uブックス - 蜀犬 日に吠ゆ

 化政時代の噺家、桜川慈悲成の噺本に出てくる話。

大力

 孔子のお弟子のうち、子路というのは、気の軽き人、その上、強力にて折々孔子御退屈の節は、俵の曲持ち、大石などをかつぎて孔子に御覧にいるれば、孔子がおんよろこびあって、おもしろやおもしろやと、ふだん仰せ候まま、おもしろと名をくだされけり。子路ある日、夕ぐれに、孔子の御扶持米なるか、米四五俵を背負いて山をくだりする。あとより人二三人きたり「あれ見よ、強きものなり、ただただ俵の歩み行くようなり、ただ者にあらず、走りついて見ん」

と早足に行けども子路は重荷を事ともせず、すたすたと行くに追いつかず。

一人申しけるは

「あの者たちは、確かに孔子のお弟子、子路ならん」

と一人駈けり行きて背負いゆく俵をたたきて

「子路なるか、子路なるか」

といえば、子路ふりむきもせず

「まだ、くろ米じゃ、くろ米じゃ」

               (『延命養談数』)

関山和夫『落語名人伝』白水Uブックス

 (太字部分は原文傍点)

 笑うしかないよね。これぞ小咄、という気もします。だいたい顔淵第十二で「倦むことなかれ」、子路第十三でも同じく「倦むことなかれ」って言ってる孔子が「御退屈の節」なんかねえよ。そんでおもしろし、おもしろし、で「子路」になったなら、その前の名前は何だったんだ? 「仲由」?

 まあ、笑い話に突っ込んでもしょうがないのですけれども、これは面白い。

落語名人伝 (白水Uブックス)

落語名人伝 (白水Uブックス)


[][][][][]春のうた を読む(その22) 20:16 はてなブックマーク - 春のうた を読む(その22) - 蜀犬 日に吠ゆ

43

 防人に行くは誰が背と問ふ人を見るが羨(とも)しさ物思(も)ひもせず

              防人の妻

 『万葉集』巻二十。防人は崎守で、辺境守備兵。七―八世紀、九集北辺警備のため諸国の壮丁を徴発した。二十歳から六十歳まで。三年交替。東国制圧の意味もあって坂東からの徴兵が多く、一家の支柱をとられる貧しい人民には大きな苦しみだった。右は夫を徴兵された妻の嘆きの歌。防人に行くのはどこの旦那さんなの、と気楽にたずねている人のうらやましさよ、こんな悲しい物思いもなしに。

大岡信『折々のうた』岩波新書

44

 家にあらば妹(いも)が手まかむ草枕旅に臥(こや)せるこの旅人(たびと)あはれ

                      聖徳太子

 『万葉集』巻三挽歌。聖徳太子が奈良の竜田山で行き倒れの死者を見て作った悲しみの歌、という前書きがある。家で暮らしていれば愛する妻の手を枕にしているだろうに、旅に出て、草を枕に倒れ伏しておいでのこの旅人よ、あわれ。コヤスはコユ(伏せる)の尊敬語。『日本書紀』にも太子作という似たような歌謡がある。そちらでは旅人の死因は飢え死にということになっていて、古代の旅のけわしさを物語っている。

大岡信『折々のうた』岩波新書
折々のうた (岩波新書 黄版 113)

折々のうた (岩波新書 黄版 113)