蜀犬 日に吠ゆ

2011-04-16

[][][][][]春のうた を読む(その22) 20:16 はてなブックマーク - 春のうた を読む(その22) - 蜀犬 日に吠ゆ

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 防人に行くは誰が背と問ふ人を見るが羨(とも)しさ物思(も)ひもせず

              防人の妻

 『万葉集』巻二十。防人は崎守で、辺境守備兵。七―八世紀、九集北辺警備のため諸国の壮丁を徴発した。二十歳から六十歳まで。三年交替。東国制圧の意味もあって坂東からの徴兵が多く、一家の支柱をとられる貧しい人民には大きな苦しみだった。右は夫を徴兵された妻の嘆きの歌。防人に行くのはどこの旦那さんなの、と気楽にたずねている人のうらやましさよ、こんな悲しい物思いもなしに。

大岡信『折々のうた』岩波新書

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 家にあらば妹(いも)が手まかむ草枕旅に臥(こや)せるこの旅人(たびと)あはれ

                      聖徳太子

 『万葉集』巻三挽歌。聖徳太子が奈良の竜田山で行き倒れの死者を見て作った悲しみの歌、という前書きがある。家で暮らしていれば愛する妻の手を枕にしているだろうに、旅に出て、草を枕に倒れ伏しておいでのこの旅人よ、あわれ。コヤスはコユ(伏せる)の尊敬語。『日本書紀』にも太子作という似たような歌謡がある。そちらでは旅人の死因は飢え死にということになっていて、古代の旅のけわしさを物語っている。

大岡信『折々のうた』岩波新書
折々のうた (岩波新書 黄版 113)

折々のうた (岩波新書 黄版 113)