蜀犬 日に吠ゆ

2011-04-19

[][][][][]春のうた を読む(その25) 16:07 はてなブックマーク - 春のうた を読む(その25) - 蜀犬 日に吠ゆ

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 春風や鼠のなめる隅田川(すみだがは)

       小林一茶(こばやしいっさ)

 上五を「春雨や」「長閑(のどか)さや」とする句稿もある。隅田川の川べりに並ぶ家から流れだす残飯、残菓のたぐいをあさる鼠だろうか。しかしそのことはいわず、鼠が隅田川をなめていると大きくとらえたところに、江戸の春の情感が一気に溢れた。一茶は生涯に二万句前後を詠んだという多作家で、駄句も少なくないが、この句のような「奇々妙々」(江戸における一茶の後援者で、自らもすぐれた俳人だった夏目成美の評)の作があるのはさすがだ。

大岡信『折々のうた』岩波新書

 下五が「切れ」春風、鼠とミクロな対象に近づいていくようでいきなり大きな情景へと視点を揺さぶります。残飯をあさる鼠って、江戸時代の鼠ってそういうイメージか知らん。

 『柳多留』をみると、

十七・31

鼠をよく取娘に母こまり

『誹風 柳多留』三 岩波文庫

 とありますからもう家鼠、「都会の鼠」になっていたのでしょうかね。


50

 朧夜(おぼろよ)のむんずと高む翌檜(あすならう)

           飯田龍太(いいだりゅうた)

 『山の木』(昭五〇)所収。当代俳壇きっての人気俳人。飯田蛇笏の子息で、父祖以来の甲斐の住人、富士山の北側に住む。「かたつむり甲斐も信濃も雨のなか」、「水澄みて四方(よも)に関ある甲斐の国」などの近作がある。その句は切れ味よく、柄(がら)が大きい。掲出句は昭和四十七年作。水気の多い春の朧夜には、アスナロの若木はひときわ力強く、「むんず」とのびているだろうという気分をうたっている。

大岡信『折々のうた』岩波新書

 朧夜の、ほんのりした闇を切り裂くようにして翌檜が屹立している。背後に付きを背負ったシルエットが目に浮かぶような名句ですね。こういう、自然の情景を擬音「むんず」で描写するというのは俳句の醍醐味の一つで、それも生きていますよね。夜道を歩く背筋も伸びそうな、生命力の句です。


折々のうた (岩波新書 黄版 113)

折々のうた (岩波新書 黄版 113)

誹風 柳多留〈3〉 (岩波文庫―川柳集成 3)

誹風 柳多留〈3〉 (岩波文庫―川柳集成 3)