蜀犬 日に吠ゆ

2011-04-21

[][][][][]春のうた を読む(その27) 20:31 はてなブックマーク - 春のうた を読む(その27) - 蜀犬 日に吠ゆ

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 相触れて帰りきたりし日のまひる天の怒りの春雷(しゅんらい)ふるる

                川田 順(かわだじゅん)

 

 『東帰』(昭二七)所収。昼ひなか、愛人と密かに会って帰ってきた折しも、春雷が天をわせる。作者は罪の思いをもってそれを天の怒りと聞いている。順は大正・昭和歌壇に盛名をはせたが、戦争直後京都で某大学教授夫人だった女流歌人と恋愛し、三角関係の苦悩から自殺未遂事件をおこした。老いらくの恋と騒がれたが、のち思いを遂げて結婚した。右はそのひそかな恋のさなかに作られた歌。調べが強い。

大岡信『折々のうた』岩波新書

 リア充爆発しろ。


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 しら露も夢もこのよもまぼろしもたとへていへば久しかりけり

                   和泉式部(いずみしきぶ)


 『後拾遺集』恋四。「露ばかりあいひそめたる男のもとへ」と前書きがある。ほんの短い逢瀬しかなかった男へ恋しい思いのたけを言いやったもの。白露・夢・この世・幻、みなはかない瞬時のたとえである。だがそれらさえ、この短い逢瀬に比べれば久しいものと思える、という。「たとへていへば」の表現は平安朝とも思えぬ大胆な言い回しで、こういう歌をもらった相手の男も参ったろう。げにも和泉は恋の歌びとであった。

大岡信『折々のうた』岩波新書

 「素晴らしいときは、やがてさりゆき」、幸せを感じるのは瞬間で、辛苦をなめるのは永劫。

折々のうた (岩波新書 黄版 113)

折々のうた (岩波新書 黄版 113)