蜀犬 日に吠ゆ

2011-04-22

[][][][][]春のうた を読む(その28) 19:27 はてなブックマーク - 春のうた を読む(その28) - 蜀犬 日に吠ゆ

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 陽炎(かげろふ)や塚より外(そと)に住むばかり

          内藤丈草(ないとうじょうそう)


 丈草は芭蕉晩年の弟子。俳を学び禅に精進したが、病身、四十三歳で没した。句は清澄で思索的。「芭蕉翁の墳(つか)に詣でてわが病身を思ふ」「塚」は墓。「墓より」と表記する異本もある。春昼、先師の墓前に陽炎がもえているのに見入っていて、ふと生のはかなさにうたれたのだ。ああ、私とて、ただ墓穴の外に住んでいるだけのこと、やがては師を追って土の中へゆく身である。芥川龍之介はこの句を好み、小品「点鬼簿」にも引いた。

大岡信『折々のうた』岩波新書

 この世の生は墓の外、って絶望感はすごいですね。


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 うつし世のはかなしごとにほれぼれと遊びしことも過ぎにけらしも

              小泉千樫(こいずみちかし)


 『川のほとり』(大一四)所収。「はかなしごと」は「はかなごと」、はかない事ども。「ほれ」は心気もうろうの放心状態を指し、そこから人に惚れるという用法も出た。大正十三年、千樫晩年の心境をうたっている。当時彼は喀血して病床にあり、死を思う折も多かった。秘めごとの恋をはじめ、多くのはかなごとに夢中だった日々への、万感こめた愛惜の思いが一首にしみとおっている。調べに哀れと艶(えん)があって、いい歌である。

大岡信『折々のうた』岩波新書

 今となってはすべて過去。過去ははかない、では未来は?

折々のうた (岩波新書 黄版 113)

折々のうた (岩波新書 黄版 113)