蜀犬 日に吠ゆ

2011-04-25

[][][][][]春のうた を読む(その31) 20:21 はてなブックマーク - 春のうた を読む(その31) - 蜀犬 日に吠ゆ

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 行春(ゆくはる)や鳥啼(とりなき)魚(うを)の目は泪(なみだ)

              松尾芭蕉(まつおばしょう)


 『奥の細道』所収。深川の芭蕉庵から舟に乗り、千住で下船、「前途三千里のおもひ胸にふさがりて、幻のちまたに離別の泪をそそぐ」tpあってこの留別(りゅうべつ)の句がしるされる。時に元禄二年三月二十七日。今の五月半ばに当る。この大旅行に備え、前年来米なまぐさものも断って心身を浄め、乞食の境涯を覚悟して出立した芭蕉だが、世はまぼろしと観じてはいても、さすがに知る人も多い江戸のちまたへの、惜別の情は格別だった。

大岡信『折々のうた』岩波新書

 今日は旧暦三月二十三日なので五月半ばというのは年によってぶれが大きい新旧対照にふさわしいとは思えませんよね。

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 人はうそにてくらす世に なんぞよ実相(じっさう)を談じ顔(がほ)なる

                        閑吟集


 室町歌謡。軒先に燕が何羽も並んでとまっている。しきりにさえずり合う姿はほほえましいが、ながめてあれば何やら心得顔のそのおしゃべり。無常迅速の浮世の夢まぼろしを超越した、真如(しんにょ)の世界、不滅の真理について談じているようではない。人間さまの方は、うそ八百を方便に、

大岡信『折々のうた』岩波新書
折々のうた (岩波新書 黄版 113)

折々のうた (岩波新書 黄版 113)