蜀犬 日に吠ゆ

2011-04-28

[][][][][]春のうた を読む(その34) 19:47 はてなブックマーク - 春のうた を読む(その34) - 蜀犬 日に吠ゆ

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 湧きいづる泉の水の盛りあがりくづるとすれやなほ盛りあがる

                窪田空穂(くぼたうつほ)


 『泉のほとり』(大七)所収。信州の松本在に生まれた空穂は、高等小学時代、二里ほど離れた松本市の、早い時期に建てられた洋風建築で名高い開智学校に通った。通学の途中に広い柳原があり、奥に泉が湧いていた。少年は夏の日、泉のほとりの青草に寝そべり、ごぼごぼ湧きやまぬ泉が語る言葉なき言葉に魅せられて、時のたつのも忘れることが多かった。その思い出を歌ったもの。泉はこの歌の中で、作者が世を去った今も、湧き続けている。

大岡信『折々のうた』岩波新書

 私の通学路の川(宝木用水・新川)はカビくさかったなあ。ザリガニも同じにおいがした。今は涸れてる。洪水対策に地下の暗渠と二段構造にしたから。

 

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 私の耳は貝のから

 海の響きをなつかしむ     堀口大學(ほりぐちだいがく)訳、コクトー


 訳詩集『月下の一群』(大一四)所収。二行詩。題は「耳」。この訳詩集の出現は当時の詩界に鮮烈な感銘を与え、昭和時代に入っての新世代の詩の形成に大きな影響を与えた。明治期からすでに知られていた十九世紀の西欧詩人らと並んで、とくに二十世紀フランスの新詩を多く紹介した。コクトーもその一人で、「耳」はとりわけ愛誦された。耳と貝がらの形態上の号が開く大きな海への扉。翻訳であることを忘れさせる日本語の、自然で高雅な美しさ。

大岡信『折々のうた』岩波新書

 コクトオは昭和生まれの基礎教養でしょう。あと、「青春には、安全な株を買ってはいけない」も常識ですよね。

折々のうた (岩波新書 黄版 113)

折々のうた (岩波新書 黄版 113)