蜀犬 日に吠ゆ

2011-05-03

[][][][][]春のうた を読む(その39) 20:01 はてなブックマーク - 春のうた を読む(その39) - 蜀犬 日に吠ゆ

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 海だべがど おら おもたれば

 やつぱり光る山だたぢやい     宮沢賢治(宮沢賢治)


 『春と修羅』(大一三)所収の方言詩。題は「高原」。右の続きに次の三行がある。「ホウ/髪毛(かみけ)風吹けば/鹿(しし)踊りだぢやい」。詩全体は、海かなと思ったが、やっぱり光る山だったぞ、風が吹けば、鹿(しし)踊りにかぶる面の髪みたいに、髪が踊るぞ、という意味だろう。作者賢治が所蔵して書き入れをしていたこの『春と修羅』では、この詩の上に斜線が引いてあるそうだが、作者の意思いかんとは別に、この方言詩は生きている。

大岡信『折々のうた』岩波新書

 と、大岡先生が書いてから、賢治の研究はほぼ進んでいないというのが国文学の常識。「斜線が引いてあるそうだ」が限界。

 『春と修羅』という詩集の題名も、中身に負けず劣らず凄絶なイメージと牧歌的要素をないまぜにした賢治らしいものですね。




78

 朝月夜(あさづくよ)双六うちの旅寝して       杜国(とこく)

  紅花(べに)買(カフ)みちにほととぎすきく    荷兮(かけい)


 『芭蕉七部集』第一『冬の日』の歌仙「しぐれの巻」より。杜国も荷兮も名古屋の人。江戸から芭蕉を迎えて歌仙五つを興行、蕉風の樹立にとって記念すべき集となった『冬の日』を生んだ。双六(すごろく)うちは賭け双六を渡世の業として歩く男。その男が、空にはまだ月が明るい早暁、紅花(べにばな)の仲買人たちが急ぎ足でゆく道に立ち出でて、ふとほととぎすを聞きつけた。初夏のさわやかな情景。紅花は、まだ露に濡れている早朝に摘むのが普通だった。

大岡信『折々のうた』岩波新書

折々のうた (岩波新書 黄版 113)

折々のうた (岩波新書 黄版 113)