蜀犬 日に吠ゆ

2011-05-06

[][][][][]夏のうた を読む(その2) 19:59 はてなブックマーク - 夏のうた を読む(その2) - 蜀犬 日に吠ゆ

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 郭公(ほととぎす)なくや五月(さつき)のあやめ草あやめもしらぬ恋をするかな

                   よみ人しらず


 『古今集』巻十一恋。集の恋歌全五巻を代表する位置にある巻頭歌で、古来広く愛誦された歌。上三句は同音を重ねて「あやめ」を引き出すための序詞。「あやめ」は文目(あやめ)で織物・木目など模様。それさえ見分けがつかぬほど恋に夢中で、というのが「あやめもしらぬ」。上三句は下二句とは意味上関係のないことをいっているが、初夏を代表するほととぎすと菖蒲(あやめ)がさわやかに歌われ、そのため下二句の恋の悩みも、はつなつの光と風に洗われている。

大岡信『折々のうた』岩波新書

 恋は盲目。で終わりにしては和歌になりませんからね。いちおう技巧はこらすわけです。

 それで思ったのですが、無季自由律って、ことわざみたいですね。「せきをしてもひとり」とか。


4

 谷に鯉もみ合う夜の歓喜かな

          金子兜太(かねことうた)


 『暗緑地誌』(昭四八)所収。昭和三十年代、いわゆる前衛俳句が俳句が俳句界を席捲したが、その旗手だった作者の比較的近年の作で、いわゆる無季の定型句。夜、せまい谷合いで鯉がもみ合っている。この情景には性的なほのめかしをもった生命のさわだちがある。それを「歓喜かな」で受けた。歓喜しているのは鯉だとも作者だともいえない。むしろ夜そのものの肉体が歓喜しているというべきか。

大岡信『折々のうた』岩波新書

 金子先生若い時からオヤジ入っていたんですね。


折々のうた (岩波新書 黄版 113)

折々のうた (岩波新書 黄版 113)