蜀犬 日に吠ゆ

2011-05-07

[][][][][]夏のうた を読む(その4) 19:11 はてなブックマーク - 夏のうた を読む(その4) - 蜀犬 日に吠ゆ

7

 命はも淋しかりけり現(うつ)しくは見がてぬ妻と夢にあらそふ

                  明石海人(あかしかいじん)


 『白描』(昭一四)所収。海人はハンセン氏病のため昭和十四年、四十歳に満たずして死去した。画家を志し、結婚して子もあったが発病、療院に入り、短歌に苦悩のはけ口を見出した。昭和十一年『新万葉集』に描写の苦悩を歌った作十一首が採られ、一躍注目された。病状が次第に悪化してゆく中で刻一刻の命の消尽をみつめ歌う。掲出歌、現実には逢えない妻と夢で逢えたというのに、その夢はいさかいの夢だったのだ。

大岡信『折々のうた』岩波新書

 


8

 泉への道後れゆく安けさよ

       石田波郷(いしだはきょう)


 『春嵐』(昭三二)所収。波郷は戦後まもなく結核の成形手術を受け、闘病生活を続けた末に昭和四十四年逝去した。昭和時代の代表的俳人の一人である。暑い日差しの中を歩いてきて、泉に近づく。連れは思わず足を早めて泉に向かう。その後姿を見ながら、こちらはゆっくり後れて歩む。泉が湧きつつ待っている所へ、友人に後れて、ひとり道をたどる思い。そこに、今生きてあることの実感が静かに動いている。それがこの句の告げている「安けさ」なのだ。

大岡信『折々のうた』岩波新書

折々のうた (岩波新書 黄版 113)

折々のうた (岩波新書 黄版 113)