蜀犬 日に吠ゆ

2011-05-08

[][][][][]夏のうた を読む(その5) 19:26 はてなブックマーク - 夏のうた を読む(その5) - 蜀犬 日に吠ゆ

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 陰(ほと)に生(な)る麦(むぎ)尊(とうと)けれ青山河

         佐藤鬼房(さとうおにふさ)


 『地楡』(昭五〇)所収。岩手県生まれの現代俳人。須佐之男命(すさのおのみこと)に五穀の神大気津比売(おおげつひめ)の話がある。頭に蚕、目に稲、耳に粟(あわ)、鼻に小豆、陰(ほと)に麦、尻に大豆を生ずる女神である。句はこの神話をふまえている。初夏の山河は一面の緑だ。その中に、すでに熟して黄色になった麦の重たい穂波が揺れる。五穀生育神話にある女体のイメジが、麦に宿る生命感と呼応し合うのを見た感動をうたう。

大岡信『折々のうた』岩波新書

 イメジ(笑)。

 


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 朝霧のおぼに相見し人ゆゑに命死ぬべく恋ひわたるかも

                笠 郎女(かさの いらつめ)


 『万葉集』巻四相聞。笠郎女は万葉女流中有数の歌人で、大伴家持に贈った恋歌で知られる。いずれの歌も女心を激しく吐露している上、技巧にも秀でていて忘れがたい。右もその一つ。「朝霧」は朝霧のように。「おぼ」はおぼろ、ほのか。「人ゆゑに」は、人だのにの意のユエニ。朝露のように、逢引きしたともいえないほどほどほのかに逢っただけの方なのに、命も絶えんばかり恋しうございます。

大岡信『折々のうた』岩波新書

折々のうた (岩波新書 黄版 113)

折々のうた (岩波新書 黄版 113)