蜀犬 日に吠ゆ

2011-05-10

[][][][][]夏のうた を読む(その7) 20:54 はてなブックマーク - 夏のうた を読む(その7) - 蜀犬 日に吠ゆ

13

 ゆめふしにかもすご喰(く)へば風薫(かおる)    凡兆

   蛭(ひる)の口処(くちど)をかきて気味よき    芭蕉


 『芭蕉七部集』中『猿蓑』の「灰汁桶(あくおけ)の巻」より。二句の続きによって、野良仕事のあと膳にむかった男が、田んぼで蛭に血を吸われたあと(口処)をぼりぼりかいている情景を描く。カマゴはイカナゴ、コウナゴで、カマスとは違う。「風薫る」は東南から吹く夏のさわやかな風の特徴をとらえた夏の季語。一日の仕事を終えてつましい食卓にむかうほっとした気分が、かゆい所をかく気持ちよさに活写されている。

大岡信『折々のうた』岩波新書

 


12

 枝にもるあさひのかげのすくなきにすずしさふかき竹の奥かな

               京極為兼(きょうごくためかね)


 『玉葉集』夏。為兼は藤原定家の曾孫で鎌倉時代末期の代表歌人。万葉尊重を説き、世に玉葉・風雅時代とよがれる和歌の新風を興し、主導した。政争にかかわり、二度にわたって蓜流の身となった。『玉葉集』は伏見上皇の命彼が編んだ勅撰集で、彼や伏見院の他に永福門院の作も有名。こまやかで清冽な自然描写が、続く『風雅集』にも共通の特徴で、右の歌にそれはよく現れている。「かげ」は光。下句は竹林の幽静境を見事にとらえている。

大岡信『折々のうた』岩波新書
折々のうた (岩波新書 黄版 113)

折々のうた (岩波新書 黄版 113)