蜀犬 日に吠ゆ

2011-05-11

[][][][][]夏のうた を読む(その8) 19:39 はてなブックマーク - 夏のうた を読む(その8) - 蜀犬 日に吠ゆ

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 篁(たかむら)の竹のなみたち奥ふかくほのかなる世はありにけるかも

                中村三郎(なかむらさぶろう)

 長崎生まれの歌人。若山牧水に師事し、その歌誌「創作」の花形的存在だったが、大正十一年三十二歳で若死にした。近年全歌集が編まれた。作者は前回掲げた京極為兼の竹林の歌を目にしていたかどうかわからないが、両方の歌とも、竹林の閑寂な幽静境をうたった忘れがたい秀歌だと感じられる。この歌は大正七年二十八歳の時の作。「なみたち」は並み立ち。下句の「ほのかなる世」がまことに麗しい。

大岡信『折々のうた』岩波新書

 そうだねえ。虎さえ襲ってこなければ、竹藪に住んでタケノコだけ食べて生きていけるタイプの極楽が、私も好き。


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 夏影(なつかげ)の房(つまや)の下(した)に衣(きぬ)裁(た)つ吾妹(わぎも) 裏(うら)設(ま)けてわがため裁(た)てばやや大(おほ)に裁(た)て

               柿本人麻呂歌集


 『万葉集』巻七、「人麻呂歌集」から採ったと注記のある旋頭歌群の一つ。人麻呂作と確定はできないが、大らかな歌柄は人麻呂にふさわしい。「裏設けて」には着物の裏を用意してとする説と心用意をしてとする説がある(ウラは心の意もある)が、後者の方が詩趣がある。「房」は妻屋、寝室。夏木立の影の小屋で布を裁っているいとしい妻よ、私の服なら、気をつけて少し大きめに頼むよ。夏服と若夫婦の取合わせがういういしい。「やや大に」に魅力がある。

大岡信『折々のうた』岩波新書

 旋頭歌のリズムには、乗り切れません。

折々のうた (岩波新書 黄版 113)

折々のうた (岩波新書 黄版 113)